恩師を訪ねて ~偶然を生かして、キャリアを生きる~

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「学生のうちは自分の夢や目標がわからなくて当たり前。なぜその職業に就いたのかは、後で振り返ったときに初めて語れるもの――。」
そう話すのは、東京経済大学コミュニケーション学部の北山聡准教授。情報産業を研究する傍ら、キャリアデザインプログラム運営委員長として自分の可能性を探る学生たちのサポートを行っている。
恩師を訪ねて第六弾は、北山准教授と水上印刷ICT革新部課長の一重友理枝が、現代を生きる若者のキャリア形成について熱く語った。

学生時代はおとなしいタイプでコンピューターが好きなわけでもなかったという彼女も、今では社内のインフラからクライアントへ提供するWEBサービス、社内基幹システム等を管理するICT革新部の責任者。「思い描いていたようには絶対ならない」と話す彼女のキャリアを通して、キャリア形成における“オープンマインド”の重要性を考える。

北山 聡
東京経済大学
コミュニケーション学部
准教授、学長補佐、
キャリアデザインプログラム運営委員長
東京経済大学:http://www.tku.ac.jp/

-Profile-
北海道出身。一橋大学社会学部卒。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。同博士課程単位取得退学。
2001年に東京経済大学コミュニケーション学部専任講師となり、現在同学部准教授。
専門はコミュニケーション論および情報産業論。特に情報産業史を中心として研究を行うほか、キャリア教育にも注力し、2017年4月より東京経済大学に新設されたキャリアデザインプログラムの運営委員長を務める。

一重 友理枝
水上印刷株式会社
ICT革新部 課長
HP:http://www.mic-p.com/

-Profile-
「情報を扱う仕事がしたい!」という思いがあり、就職活動はインターネット関連と印刷会社を中心に活動。いくつかインターネットサービスの会社から内定を受け、意思を固めていたが、たまたま参加した水上会長のプレゼンに感銘を受け、選考に参加。規模感や社内の雰囲気が、自分としても合っているとしっくりきたため、それまでの内定を断り、一転水上印刷への入社を決意する。
入社から7年間、複数クライアントの進行管理業務を担当。2017年にICT革新部へ異動。


ピボッティングしていく人と企業

一重:在学中の私の印象はどうでしたか?

北山:あなたの印象は結構良いよ。

一重:おお。真面目でしたからね。

北山:真面目だからね。
でも、そんなになんでも自分で積極的にやるとか、プッシュ気味の学生ではなかったよね。

一重:そうですね、結構受け身タイプでしたね。

北山:普通の大学生は課題でもなんでも結構ギリギリなんだけど、その印象は無いかな。とにかくなんでも期限通り、早め早めにやるタイプでしたね。

一重:それはいいですね。優秀な学生でしたね(笑)。

北山:優秀でしたね(笑)。
卒論は私が担当したわけではないけど、あなたの卒論を今でも学生たちの見本に出しているよ。あれだけデータをちゃんと整理した卒論はなかなかないから。

一重:それは初耳ですね。
私、あんまり面白い学生ではなかったと思います。

北山:あんまりはっちゃけていなかったからね。

一重:おとなし~い感じだったと思うんですよね。

北山:うん。
でも、今ではバリキャリに成長して。バリバリやっているでしょう?

一重:バリキャリ(笑)。
でも、そうですね。今はすごく「この人チャキチャキしているな」という感じに思われていると思います。

北山:すごく成長したよね。

今日は「働くこと」について話をするということだけど、私も4月からキャリアデザインプログラム(※1)運営委員長になっただけではなく、キャリア教育を実際大学でやっているので考えることは多いんだ。
さっき少し話したけど、「何故その職業に就いたのか」というのは、その職業に就いた時点で振り返っているから必然的に見えるだけなのではないかな、と私は思っているんだよね。

※1 キャリアデザインプログラム
2017年4月から東京経済大学で導入された、“就業力”を自ら育成する基礎を身につけるためのプログラム。1年次には学部を特定せずに入門科目を学び、2年次から学部に所属し専門科目を学ぶことで、学部横断型の広い分野の科目履修が可能となっている。

北山:いろいろな職業に就いた人の話を聞いてみても、その職業に就いた時点で振り返って話していることだから「こういうふうにやろうと思って、こういうふうになった」みたいに聞こえるけど、実際はそうじゃないかもしれないし、そうじゃないことのほうが多いんじゃないかなと思うんだけどね。

一重:なるほど、そうですね。

北山:情報産業の歴史でもそうなんだけど、計画を立てて「やろう」と思ったことで、思った通りに成功した会社は究極的に言うとないと思うのよ。いろいろなプレイヤーがいる力学上に市場は出来上がっていて、その市場環境に合わせて自分を変えていった結果だと思うんだよね。

元々の軸とは別のところへ展開していくことを「ピボッティング」というんだけど、そのピボッティングというのは結構昔から起こっていて、企業も生き残りをかけて、自社の持つ要素技術を生かしながら、元々主戦力としていた分野とは違う分野で道を開いていく。

コンピューター産業そのものもそうだね。IBMは元々パンチカードという紙に穴を開けることで情報を記録するシステムの会社からスタートしているんだけど、技術の進化と共にコンピューターの会社になり、さらには情報サービスの会社に変化していったわけです。
あと、CPUのインテルは元々メモリーチップの会社ですが、メモリーチップ業界は人海戦術と生産技術で日本が世界を席巻した。それによってインテルはメモリーチップ企業として生き残るのは難しくなってマイクロプロセッサを主軸に据え直しましたよね。

実は多くの企業が元々計画されて出来上がったものではなく、市場環境の変化によって強いられてそうなった面があるのよ。
GREEだって成功したのはSNSじゃなくてゲームのほうだし、DeNAだって元々はオークションの会社だからね。

一重:おお、言われてみるとそうですね。

北山:周りから見ると最初からそう計画されていたように見えるけれど、実際の過程は結構アドホック(ad hoc=暫定的な、特定の目的のための)に進んでいるんだよね。
情報産業なんて特に変化が激しい産業でしょう? 技術進化があったりして予測がつかないものが始まったりするんだよ。だからそんなに計画通りに物事って進むわけではないんだよね。

企業だけではなく、多くの「働くこと」はそうだと思う。キャリア教育の中でもまだ主流にはなっていないけど、ハップンスタンス(Happenstance=偶然の出来事)を重視する考え方が徐々に浸透しているのよ。こっちのほうが私は説明力が高いのではないかな、と思っている。

……今良い話したな~(笑)。

一重:今良い話しましたね~。ずっしりきました(笑)。

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