適性なんてやってみなくちゃわからない
北山:個人的な体験なんだけど、アメリカの就職状況を見ていて「これならまだ日本のほうがマシなんじゃないかな?」とすごく思ったんだよね。
アメリカではかなり偏差値の高い大学の生徒たちですら就職活動はすごく難しい。
アメリカでは職種別採用だから、ポジションが限定された採用が多くて、コネが重要だったりするし、競争率が高い。それでいて本当にその職業が本人の適性に合っているかはわからないんだよ。だからこそ長期のインターンシップが行われているわけだけど。
日本の場合は、入社後配属された業務に適性がなかったとしてもそこで終わりではなくて、人事異動先で適性に合った仕事に出会えたりする。日本では就職活動や会社内の異動が本人の適性ややりたいことの発見に繋がるから、あながち悪い手法をとっているわけではないと思うのよね。
むしろ適性なんて入社後にわかってくることだと思うのよ。だから就職活動の時も「適性なんてやってみなくちゃわからない」ということを前提に職を探さないといけないかなと思うんだよね。
スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授という人が「その幸運は偶然ではないんです!」(※2)という少し自己啓発本みたいな題名の本に書いているんだけど(笑)。
一重:確かに自己啓発本みたいな題名ですね(笑)。
※2
ジョン・D・クランボルツ教授。「その幸運は偶然ではないんです!」
2005年11月日本発売
北山:「偶然性を生かせるようなマインドセットや、対応能力を身につけることが重要だ」ということに触れた本でね。日本はアメリカのように職種別採用じゃなく、企業別採用だから、そういうほうが合っているんじゃないかなと思っているわけ。
例えば広告会社で働きたくて広告会社に入社したけど、広告制作部門に行けるとは限らないわけです。経理かもしれないし、人事かもしれない。だけど、もしかしたら広告以外の制作をやっていてスキルが高まって、人的ネットワークを張っていたらポジションが空いた時に仕事が回って来るかもしれない。そういう偶然性を活かせるようなオープンマインドでいたほうがむしろ近道なのではないかなと思う。
一重:なるほど。そうですね。
北山:目標を立てて、その通りにやらないと就けない職業ももちろんあると思う。医者やアナウンサー、プロ野球選手とかね。そういう競争が激しい特殊な商売と、普通の人が就く普通の商売のキャリアプランの立て方は必ずしも同一ではないにも関わらず、前者の商売にも適用可能なメソッドでキャリアプランの形成支援は行われているわけです。
だから「目標を決めなさい、目標が決まったらそこに行くにはどうするか現実的なステップを考えて着実に淡々とやりなさい」みたいなことになる。でも普通の人生はそうではないと思うんですよ。
ハップンスタンスを重視するようなキャリア形成は「競争が激しい特殊な商売に就けなかったらどうするのか」というようなケースも考えなくてはいけない。だから特殊な商売を目指す人にとっても重要なんです。
「アメリカンドリームを前提とした夢を描いて、それを実現する」というようなシンプルなシナリオのキャリア形成が可能だという幻想を打破していかないと。
一重:そうですね、なるべく早めに。
北山:そう。
今それは大学生の就職活動の時に失望を伴う辛い活動として集中的に行われてしまっているわけ。でも実は幻想が崩れた瞬間に過ぎないのよ。