恩師を訪ねて 〜デジタルネイティブ世代にとって紙の価値は?〜

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恩師を訪ねて 〜デジタルネイティブ世代にとって紙の価値は?〜


これから就職活動をする学生に向けて、「恩師を訪ねて」第四弾。

水上印刷営業部次長 池田将人。現在は外食チェーンのクライアントを中心としたグループのマネージャーを務める池田が学部生・修士時代を過ごしたのが東海大学工学部画像工学部である。研究開発を目指し、民間企業での社会人経験を持つ東海大学工学部 光・画像工学科 面谷教授の研究室を選ぶ。

そこで学んだ自らを表現する力、正しく伝える力は今の彼へとつながっていた。
電子ペーパーを研究しながらも紙のノートを取り続け、安易な電子化や情報過多の時代を、画像工学、特にヒューマンインターフェイスの立場で鋭く見つめる。そんな面谷教授に、印刷会社の未来、学生への期待まで語っていただいた。

面谷 信
面谷 信
東海大学工学部 光・画像工学科
教授
東海大学:http://www.u-tokai.ac.jp/

-Profile-
東海大学工学部光・画像工学科教授。
電子ペーパー、視覚認識、3D表示等の研究に従事。
1980年東北大学大学院機械工学第二専攻修士課程修了。
同年日本電信電話公社(現NTT)入社(横須賀電気通信研究所に勤務)。
1987年工学博士(東京大学)。
1997年東海大学工学部光学工学科助教授。
2002年東海大学工学部光・画像工学科教授。

日本画像学会会長、日本印刷学会理事、JBMIA電子ペーパーコンソーシアム委員長(Society for Imaging Science and Technology、日本画像学会、画像電子学会各フェロー)
著書:「紙への挑戦 電子ペーパーー情報世界を変えるメディア」(森北出版、2003年)
「トコトンやさしい電磁気の本(今日からモノ知りシリーズ)」(日刊工業新聞社、2016年)

池田 将人
池田 将人
水上印刷株式会社
営業部 次長
HP:http://www.mic-p.com/

-Profile-
大学時代に光工学・色彩を専攻していたことから、自然と印刷会社に興味を持ち就職活動を展開。
その中で知った水上印刷の「ひと」に惹かれ、入社を決める。
入社後は大学で学んだ知識を活かして、営業としては稀なオフセット印刷技能士の資格を取り、
その後は様々な営業グループを渡り歩きながら、特にマーケティング、プロモーション分野で能力を発揮。2010年にチーフに昇格、2015年に課長、2017年には次長に昇格。現在は、外食チェーンのクライアントを中心としたグループのマネージャー。三児の父。


恩師を訪ねて

池田: 学生のとき、面谷先生は民間企業での社会経験があるので他の先生より学ぶことが多いだろうな、と思って先生の研究室を選んだんです。

面谷: それで、どうでした?

池田: 本当に勉強になりました。特にプレゼンテーションのこだわりですね。
プレゼンテーションの仕方、いかにしてよく見せるか、ちゃんと正しく伝えられるかということをすごく意識されているので。学んだことが今の営業にも繋がっているんだろうなと。

面谷: 発表指導うるさいですよね、私(笑)。

池田: はい(笑)。

面谷: 私もNTTに入社して、トレーニング期間の2年間で研究企画発表。その半年後に進行状況報告をやりました。まだPowerPointもワープロもない時代で、OHP(※1)に手書きでしたね。

※1 OHP(オーバーヘッドプロジェクタ)
オーバーヘッドプロジェクタは、非常に明るい光源と冷却ファンを内蔵した箱の上部に、レンズが付属した装置である。
さらにその上にアームが伸びていて、光を反射してスクリーンに投影する。
(出典:ウィキペディア

池田: ああ、OHP懐かしいですね。

面谷: どれだけ上司にコテンパンに言われたか。「だいたい君はこれ、見せたくないのかね。なんだこの汚い字は」「いや、時間不足で急いで書きましたが、見せたくないわけではないんです」と言い訳しましたが、もう散々言われて。

池田: そういうのがベースとして、先生の中にあったんですね。

面谷: それでプレゼンは鍛えられましたね。自分の知っていることでも、何も知らない人から見たときに、どこがわかりにくいかがわかる。だから学生には他の人には通じないよ、書き換えないと伝わらないよ、というのをいつも指摘しています。

伝わる表現・伝わらない表現

池田: それ、営業でも大事なことですよね。

面谷: ついつい業界用語や我が社用語を使ったりするでしょう。それだと途端に伝わらない。

池田: 当時勧めていただいたわかりやすい表現についての本を、就職してからもう一度読みましたね。

面谷: 池田くんといえばサンノゼに発表に行ったとき、二人で同室に泊まったんですよね。池田くんが発表練習を英語でぶつぶつ言っているとき、私はちゃんとは聞いてないんだけど、時々「そこアクセント違う!」とかいって、横で指摘していた(笑)。

池田: ありました。発表前日の夜(笑)。

面谷: たいして指導する気はないんだけど「いやそこは違うだろう!」って。

池田: それで確か自分は「この時点で言いますか? 明日発表なのに」って(笑)。「いや、直さなきゃだめでしょ!」と言われて「すいません」と。そんなやりとりをしたような。内容についてもなにか……。

面谷: そうでしたっけ? 主にアクセントぐらいだったと思うけど。

池田: 懐かしいですね。初めての海外旅行が先生と二人だったという。
その頃の研究内容を、水上印刷の採用面接のときに紹介しましたよ。当時面接してくれた役員がいまだに覚えてくれていて「池田のやっていた研究って結構面白そうだよね」と言われます。

面谷: それで今日の対談に繋がった、というわけですか。

池田: (笑)。そうですね、本日はよろしくお願いします。

デジタルネイティブ世代のペーパーレス寛容は危険

池田: 今日の資料ですけど、プリントアウトされているんですね。

ペーパーレスの危険性

面谷: 池田くんがいた頃は私も目が良くて眼鏡なんて要らなかったんだけど、シニア・アイになりまして。

池田: 紙の方が読みやすいですよね。私は印刷会社に勤めているので、「必ず校正は出力して見なさい。画面で見比べると絶対間違えるから。見落とすから」と言っています。
見積もちゃんと確認したいものは出力して確認します。

面谷: やっぱりそう思いますか。
今日は丁度、卒論・修論の締め切り日なんだけど、卒論でよくあるのが学生に修正指示をしたのに、直していないこと。要するに直し漏れ。

あまりにも多いので「君たちはなんでこんなに漏れが多いんだ? 1つ直すごとに鉛筆で丸をつけたらどう?」と言ってよく聞いてみたら、彼らはプリントアウトしてない。画面上で修正事項を見ているから、そもそも鉛筆で丸付けなんてできない。「ああ、だから修正漏れが多いわけね」と納得しました。

池田: 今の学生だともう、デジタルネイティブの世代ですもんね。

面谷: それで怖いのはね、デジタルネイティブはディスプレイ環境に慣れているので、紙に出力しなくても平気という点です。本人も気にしてないし、それで作業効率が下がっていると思ってない。でもそれは、もっと高い作業手段があることを知らないだけかもしれない。

だから10個の間違いを直すように指示された際に、直し漏れを指摘されたら「そりゃあ2個や3個は漏れますよ」と。それは私の能力の限界です、みたいな感覚でいるんじゃないかと。

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面谷 信

面谷 信
東海大学工学部 光・画像工学科 教授
1980年東北大学大学院機械工学第二専攻修士課程修了後、日本電信電話公社(現NTT)入社(横須賀電気通信研究所に勤務)。
1987年に東京大学で工学博士したのち、1997年に東海大学工学部光学工学科助教授に就任。2002年より東海大学工学部光・画像工学科教授として電子ペーパー、視覚認識、3D表示等の研究に従事。

面谷: 紙に出力すれば同じ人がやってもたぶん全部気がつくと思うんだけど、劣悪な作業環境でやることしか知らないから、自分の能力を過小評価してしまう。

池田: もったいない感じがしますね。

面谷: ペーパーレスオフィスという考え方は非常に危険。この前、水上印刷を見学させてもらったときに、紙が机の上にたくさん載っていて、「よしよし」と(笑)。

池田: ちょっと整理が出来てない机が多いだけですけどね(笑)。

先生は電子ペーパーの研究をしていらっしゃいますが、紙と液晶とかディスプレイ、それぞれの良いとこ取りをどうやったらできるか、というテーマもありますよね。

面谷: 全ての作業を紙に印刷しないで全部ディスプレイ上でやる、というのはとても危険なこと。普通は紙面上でやる人が多いんだけど、下手すると「我が社は紙禁止!」みたいなことになったりするでしょ、それは危険。
全社員のパフォーマンスを2割下げた状態で仕事をやっているようなもの。

池田: ありますね、そういう会社。

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