恩師を訪ねて 〜デジタルネイティブ世代にとって紙の価値は?〜

1 2 3 4

デジタルで迷路化する情報

池田: 巷でいろんなもの、特に印刷物は電子化されているんですよね。ポスターはデジタルサイネージに変わって、昔紙が貼ってあったところがディスプレイになって、動画になっている。でも、飲食店に行くと注文ができる端末があっても、紙のメニューが置いてある。紙だと、お店に来た人としては全てを一覧できて「こんなのもあるんだ」、という楽しさや選びやすさというのがあります。

面谷: 端末で見せられても、広がりがわからないですよね。小さなのぞき窓から手探りで見ている感じ。「この窓の下にどれだけあるの?」というのが、さっぱりわからない。

池田: その表現、わかりやすいですね!

面谷: 「え、まだこの先あるの?」みたいな。でも紙であれば、「とりあえずこの8ページに全部あるわけね」というのが分かるわけ。端末に慣れてない人が使い方もわからないという面もあるけど、端末を使うことに抵抗のない人でも、その手探り感とはあって、どこまでこの空間があるのかわからない。

池田: 回転寿司に行くとメニューのパネルがあるんですけど、「あれ、マグロはどこまでだろうな」って思います(笑)。期間限定メニューとかもあって、入り口がそもそも違ったりとか。

面谷: 迷路ですね。それはソフト的にも工夫の余地があって、我が社の迷路はこうなっていますので、って地図を最初に出してくれればいいのに。

池田: 見せ方がありますよね。単純に、オペレーションを楽にするというところに機能が走ってしまっていると思うんですけど、さっきの「教科書をただデジタルにするんじゃ意味がない」というのと同じで。料理をしているシーンが動き出したりとか、訴求し始めると面白いかもしれないですね。

面谷: うんうん。

池田: デジタルにしただけじゃ価値がない。良いヒントをいただきました。

手探りのぞき穴

面谷: 電車内に設置されたディスプレイで、トレインチャンネルというのがあるけれど、あれ、意外と紙芝居風になっているでしょう。

池田: ああ、はい。

面谷: 動画じゃなくて、わざと紙芝居風にしてある。普通のTVでやっているコンテンツを電車に流すと、うるさがられるそうです。

池田: ほおー。見たくないと思われてしまうんですかね。

面谷: 満員電車でストレス感じているのに、動画を見るのはもうお腹いっぱいみたいに感じてしまうんでしょうね。ちょっと情報量不足くらいのほうが好まれるらしくて。JRの広告担当に聞くと、そっちのほうが評判いいと、わざわざ紙芝居風にしているそうな。

情報が多ければ多いほどいいというものでもなくて、情報過多というのもうるさがられる。今のデジタルサイネージは、むしろ情報過多ですよね。
ポスターだったら、ずらーっと壁に貼ってあってもいいけど、そこに液晶ディスプレイがずらっと並んで、それぞれ違う動画を流していたら、うるさくてかなわない。

池田: 確かにそうですね。

面谷: デジタルサイネージを考えるときには、情報量や色の多さに気をつけないと。駅前の風景は「我が社が一番目立ちたい!」主義のどぎつい広告で埋め尽くされている。デジタルサイネージであふれた世の中はそうなるかも。

池田: 渋谷のスクランブル交差点なんかあちこちにディスプレイがありますよね。

面谷: 広告は電子ペーパーのような白黒を基本にするとか、カラーでも穏やかなパステルカラーを基本にするのが理想ですね。

印刷業界の将来は?

池田: 印刷会社としては、なくなる印刷物もありまして。

面谷: 印刷会社としては大いに考えないと。やっぱりジリ貧傾向でしょ?

池田: 印刷業界自体は、縮小していますよね。

面谷: うん。減るものを抱えているだけでは、会社もジリ貧だから、減った分を上乗せてできるものを早めにつかんでおかないと。例えば、新聞社は確実に潰れると思う。

池田: メディアの主役が変わってくる。

面谷: そもそも勘違いしやすいのは、新聞社が何のためにあるのかということ。輪転機を回して新聞紙を刷るためではない。取材力、執筆力、情報選択力、本当はこれが新聞社の価値でしょ。それを勘違いして「いや、このままいきます」と言うと、紙の新聞がどんどん減ると同時に、取材陣を養えなくなって、潰れる。我が社の本体はこの執筆陣、情報収集能力だって、どこかで頭切り替えてやったほうがいいと思います。

何のための会社か

池田: 取材力などの強みを磨いていくべきだということですね。

面谷: でも新聞社はすごく古い体質なので、きっとできない。潰れて、優秀な取材スタッフは他のステージでやっていくということにおそらくなる。

池田: 一般の印刷会社はどうですか?

面谷: 水上印刷は印刷業だけじゃなくて、企画とか配送とかやっているでしょう。そういうふうに多様化しておいたほうが良い。

野心を持とう!

池田: 最近の学生はどうですか? 理系の学生は研究開発したいと思ったら、やっぱり大きい会社を目指した方がいいとかありますか?

面谷: 大学院まで進学した子には開発希望者が多いけれど、学部生は技術畑じゃなくてもいいという学生も多い。
理系の学科を出たからって技術じゃなくても、もちろんいいんですよ。池田くんなんて営業畑だけど、画像工学で印刷の技術を学んだことも、少し役に立ちながらやっているでしょう?

まあ、画像工学とまったく関係ない仕事でいいと言われると、「なんのためにこの学科を出たの?」という感じになってしまいますけどね。
もっと嘆かわしいのは、1年生が入ってきて「君の将来の夢は?」と聞くと、「就職することです」と答える学生が少なくないこと。

池田: 特に職種希望もなく? とにかく就職すること、と言うんですか?

面谷: 「就職難と言われているので、就職できたらいいなあと思っています。できれば正社員で」ということでしょうね。50人に1人くらいならいいんだけど、10人くらいはそういう答え。もうちょっと目標を絞ったほうがいいのではないかなと思います。

池田: 言うだけは言ってほしいですよね。謙虚ですけどね、ある意味では。

面谷: 「もうちょっと野心持ったら?」という気はします。何かにつけて「草食系」みたいな、積極性を感じないことがあるのが心配。みんながそうだと、日本は危ない。全員がそうといわなくても、それなりに野心のある子がいることを期待しています。

池田: やはり、野心は必要ですね。私も今日、お久しぶりにお会いできて、野心を持ち続けたいと改めて思いました。
本日はありがとうございました!

恩師を訪ねて

最近の投稿