ビジネススキルとしてのデザイン

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ビジネススクールに入って感じたこと

松尾:よく知らない人から見ると「ビジネスとデザインがくっつくの?」という驚きがあるから「デザイン思考」という言葉がバズワードになっている感じがしますよね。

稲葉:実際、ビジネスとデザインの2つを同時に扱っていくのは至難の業というか、苦労が多いことですけど、非常に可能性があるものなので、そこを横断している自分たちにできることは多いのではないかと思っています。

松尾:周りにはそういう人、あんまりいないですか。

稲葉:すごく少ないですね。自分と似たような仕事をしている人に会ったことがない(笑)。私は美大に入った時から将来自分で独立してやっていこうと決めていました。

そして2年前に起業した時、マネジメントに関する知識が弱いなと感じて、ビジネスの型を知りたいと思い経営大学院に通い始めました。型を身に付ければ、効率化できるところもあるんじゃないかなと思ったんですね。

経営大学院には、自分の事業を上手くつくるために入ったんですけど、そこに通っているビジネスマンたちを見ていると「ビジネス×デザイン」というエリアは、やはり自分たちが対応した方がいいのではないかと強く思うようになりましたね。優秀なのにデザインの知識だけが不足している社会人があまりにも多くいるという現実を見たわけです。

ビジネススクールに入って感じたこと

美術大学を出た人とそうでない人は棲み分けをしているというか、そもそもいる場所が違う。異空間の人になっているんです。私も、美大を卒業した後もパフォーミングアーツの業界で働いていたので、一般の大学を出て大企業に勤めている人に出会う機会はほとんどなかったんです。

松尾:うちの会社にもデザイナーと、営業とか普通の大学出た人の両方がいますけど、まず格好が違いますよね。デザイナーは私服でオッケーだけど、営業の人はスーツ着ているみたいな。あの人はデザイナーだから多少自由にさせてあげようという感じで(笑)。

稲葉:許される空気がある(笑)。企業内では接することもあるけれど、一般的にはコミュニティとしては近くない。

松尾:棲み分けはあるのかもしれないですね。それで経営大学院に通い始めると、周りがそういうビジネスマンばっかりだったということですね。

稲葉:それまで、いわゆる大企業のビジネスマンという方に多く会う機会はなくて、集団で見た時の衝撃が結構大きかった。自分たちとは基準が違うんです。物を選ぶ基準。休日の過ごし方、面白いと思うテレビや映画、持ち物、服装、その基準が全然違う。そういうのを見ていると勉強になるし、その人たちがどういうことを学べば変わりそうかも分かってくる。

松尾:その中で、デザインとビジネスの間をつながないといけないと思ったんですね。

稲葉:そう思いました。というのも、皆さん、デザインについての関心がすごく高かったんです。正直そこまでとは思っていなかったくらい。そんなに「学びたい、知りたい」と思ってくれているんだ、ということにも気付きました。

松尾:それがきっかけで「WEデザインスクール」を始めようと。

稲葉:もともと「CORNER」を始めるときにも「ビジネス×デザイン」の学び場をつくる選択肢はあったんです。でも「CORNER」をまずやってみながら、一方で経営大学院でビジネスマンに接するうちに、やっぱり「WEデザインスクール」のようなコンセプトで事業をやってみるのは、社会的意義がかなり大きいという結論に達しました。

「ビジネス×デザイン」の学び場を

デザイナーとノンデザイナーが共存する場所としての印刷業界

松尾:今後、取り組みたいことや課題はどんなことですか。

稲葉:「WEデザインスクール」でデザインをスタートしたので、もう一度アートをやりたい。アートもビジネスと掛け算になった場合、すごく可能性があると思っています。経営者や、意思決定をしている方には、アートに関心持っていらっしゃる方が多いんです。

クリエイティビティを身に付けていく、人間の精神や文化に関する視界を持っていく、そういう時にアートはすごく力を発揮していくので、アートで得られる視点がビジネスに活きてくる。生き方や意思決定にアートが活きてくることを知ってもらえたらと思います。

松尾:最後に、印刷業界に対して求めることや感じることはありますか。

稲葉:「WEデザインスクール」では、デザインをマネジメントできる人、判断・活用できる人材が増えてほしいと思っています。でも実際には、経営とデザインが分断されていて、コミュニケーションがうまく取れない場面が多い。両者を積極的につなぐ人を増やすのが重要です。

印刷業界はもともとデザインとの近さがあるところなので、社会の中でデザインの力をどう活かしていくのか、デザイナーの力をどう配備していくのが適切なのか、そういったことを考えて事業を展開していってもらえたら、素晴らしいのではないかなと思います。印刷会社というのは、デザイナーとノンデザイナーが共存している珍しい場所なんですよね。実はそういう場所は多くない。

松尾:確かに、大企業や銀行にデザイナーがいるかと言われると、いないですよね。そこら中にいるわけではない。

稲葉:「モノ」へのアウトプットだけでなく「コト」へのアウトプットというか。デザインの力がいかにビジネスへ展開できるのかを模索する先頭に立ってもらいたいと思います。

松尾:これからの印刷業界の命題ですね。
本日はありがとうございました!

稲葉:こちらこそ、ありがとうございました。

デザイナーとノンデザイナーが共存する場所としての印刷業界

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