AIと人間の関係性はどうあるべきか?
河合: 話がガラッと変わるんだけど。「AIが人間の職業を奪う」って話が結構盛り上がってるじゃない? 個人的には、「奪う」が正解ではなく、関係性が変わるってことだと思ってるんだよね。前編で話題に出た、医者や家庭教師の話で言えば、置き換わるわけではなくて、入り口の選択肢を数多く挙げる部分を任せるというか、AIが一次候補みたいなものを、過去のパターンに則って効率よく挙げてきて、最後の料理を人間がするという役割分担。
どこまでAIが人に取って代わるのかみたいなのって、まさにど真ん中で携わっている林さんからはどんな想像をしてる?
林: 10-0ってことはなくて、ある程度取って代わるけど、よく言われているように、クリエイティビティとか創造の分野は難しいと思うし、今のところディープラーニングもAIも、シナリオ性、ストーリー性を入力するのは人間なんだよね。
人は物を買って感動するだけでなく、背景にあるストーリーに対する共感とか、ブランドへの共感みたいな部分っていうのがあるから、商品やサービスの背景にあるストーリーメイキングみたいなことっていうのは、やっぱり人間の役割だと思っている。
ただ、今でももう出てきているけど、ある程度定型化された作業って自動化されていってしまって、人間の業務でなくなってしまう未来はどう考えても来るよね。
河合: 日本は高齢化で、生産人口も減ってきている。人件費も安くない。自動化やロボットなんかは得意分野だし、オフィスや工場において、AIやロボットが受け入れられやすい土壌はあるよね。常に生産性をどう上げていくかっていう、企業として永遠の課題もあるし。
林: 「シンギュラリティ」って、30年後は人間と人工知能の戦いだ!っていう大げさな話もあるんだけど、その前の、さらに前段階で、人工知能って人の役に立つ場面っていっぱいあって、まずはそこからビジネスにしていきましょうよっていうフェーズだと思うんだよね。
河合: いや、全く同感だよ。
林: さっき言ったみたいに最後はシナリオが必要だから、最初の候補ぐらいを、機械が分類してくれたり、過去のパターンを挙げてくれたら、人間のクリエイティブにもっともっと拍車が掛かるかもしれない。今でも役に立たせられる部分というのは無数にあるから。そういったところをもう少しちゃんと、技術として生かしていったほうが、世の中のためになるんじゃないのかなって思うよね。
AI・ビッグデータビジネスの課題は“人”
河合: ビッグデータ、人工知能の可能性って、やっぱりすごいと思うんだよね。で、あえて今の現状において、ビジネスとして展開していく上での課題って感じるところはある? 例えばユーザーのリテラシーが追いついていないとか、企業の資本や投資配分の話とか、とはいえ妄想が先行していてテクノロジーがまだ追いついていないとか。
林: あるね。人材だね。
河合: あー、そうきたか。
このケースで人材って、もう少し具体的にしていくと、要はこの技術をちゃんとビジネスに変えられる人材が不足しているっていう理解でいいのかな?
林: そう。まあもちろん、市場性とかもあると思うよ。うちは、SNSやビッグデータって言葉が世の中に出回っていない2000年頃から、ずっとこのSNS上 のデータ収集っていうビジネスをやってきてたけど、本当にいろいろと問い合わせが来るようになってきたのって、世の中で、「SNSだ!」「ビッグデータだ!」「データサイエンティストだ!」って言われるようになってからなんだよね。
河合: 言葉ができて、ようやく市場が認知したんだね。
林: そうやって市場が盛り上がってくることも重要だけど、そこで事業をやるならその時に始めたんじゃ遅いんだよね。データサイエンティストが流行っているから、データサイエンティストを育てる教育を始めましょうとかさ。もちろん、ある程度は売り上げをつくれるかもしれないけれど、もともと積み重ねてきたナレッジとか、ネットワークとか、ノウハウみたいなものがやっぱりどうしても必要になってくるから、それから始めても遅いよね。
「人材」って答えた意味は、事業を成すために、現状と未来にあるものを腕力で引っ張ってくる、体を二分しながらでも、前に進めていくっていうか、そういう気概のある人材が、まだまだ供給側に足りていない。
河合: 言ってることって、産業が自然に成熟していくわけじゃなく、強い推進力を持った個が事業化していくっていうのが市場形成の一番ポイントだってことだよね。何でも同じ気はするけど、やっぱりそこに行き着くんだなぁ。
林: 行き着くね。
河合: 面白いなって思ったのが、先端のテクノロジーに関わる話をしていても、「結局、人だよね」って話になったり、組織論があーだこーだって話になる。企業文化とか、社風とかもね。
林: ほんとだよね。どこまでいっても、そういうところは人間の役割だよね。
人工知能が経営をする日は来るか?
河合: それ最後に乗っかろうかな。人工知能がさ、経営をする日って来ると思う?
林: そうだね・・・。
「できる」って人もいるし、「できない」っていう人もいるね。うちの会社らしからぬ答えかもしれないけど、自分はできないでほしい。
河合: うちらの仕事、奪われちゃうもんね(笑)。
林: 合理的な判断が、最も正しい意思決定ってわけじゃないじゃない?
河合: 深いね。その通りだと思うけど。
林: 最適な解とか、世の中の状況に応じて判断することって人工知能にもできるかもしれないけど、事業ってさ、なんとか世の中とか、お世話になった人に対して貢献をしていきたいっていう、自分の存在意義みたいなものを、エゴも含めて再確認するために、力を発揮するっていう行動な気がするんだよね。そこがもし、常に合理的で、最適な解を最優先するようになると、失敗しないのかもしれないけど、それって本当に人間力として正しいことなのかなって思うよね。
河合: 事業家、林健人の本質を聞いた気がするよ。
林: 人工知能が全てを学習していけば、100年でも200年でも300年でも、これからの歴史の全ての経験を積み上げるっていうことができると思う。それに対して人は大体70年とか80年くらいしか生きていけない。けど寿命があるからこそ、その80年を濃密に経験して、新しい物を生み出せるかっていう気力につながると思うんだよね。限られた時間だからこそ、生きる価値みたいなものとかを、自分なりに見い出せていけるんだと思う。不老不死になっちゃったら、イノベーションとか、事業創造とか、意味ないと思うんだよね。
河合: 確かにね。不老不死になったら、子供作る必要もないし、子供の成長とかも見られない。親としてだったり、先輩としてだったり、次世代に継承していくことに価値のない世界って、面白くないかもね。
林: 正解を探したいわけじゃない。論理的にはA・B・C案があってB案がベストなんだけど、でもオレはA案を選びたい、選ぶんだっていう時があるからこそ、それが人間の決断なんじゃないかなって思うし。なんかちょっと抽象的だけど。ハートフルコミュニケーションを大切にしていたいよね。
河合: いや、最後は感傷的な話になったけど、思わぬ意見を聞けて楽しかったわ(笑)。
でも、本質なんだろうね。いや、改めて今日はありがとう。また数年後に次のビジネスの話を聞かせてもらうわ。
林: 喜んで!