AI技術もやがてコモディティ化していく
河合: データセクションのビジョン「未来のビジネスをAIとデータで創造する」だね。
AIもデータもあらゆる企業、サービスにおいて知的インフラになる予感は間違いないよね。データセクションのCOO、その業界のプレーヤーとして考えてる経営課題みたいなことはあるの?
林: そうだね、AI技術がどんどん広がっていく中で、どこに自分たちのポジションを持っていくかということだね。
河合: ポジション?例えば?
林: AI技術の広がりって、大きく2つに分かれてくると思うんだよね。一つは、それぞれの業種や業界に、深く、専門的に入り込んでいく分野。もう一つは、スマホや家電、あらゆる電子機器に安価に組み込まれ、コモディティ化していく分野。
河合: 高度に専門化するAI技術と、他の技術と同じようにコモディティ化するAI技術分野もあると。
林: そうなるだろうね。2つ目の具体例をあげると、アメリカでGoogleが投資している会社があって、ディープラーニングとか、AI、人工知能開発をしているんだけど、この会社はとても小さなマイクロチップに、人工知能の技術を埋め込んでスマホにインストールさせる、組み込むってことをやっている。これって何を言っているかっていうと、今まで人工知能っていうのはクラウドのサーバーの中で大容量のデータをゴリゴリ回して、巨額のお金を使って研究開発しないとやっていけない大掛かりなものだったんだけど、小さなチップになって、市場に撒かれて、コモディティ化していくってことだよね。
河合: 人工知能、AIみたいなものが、市場にバラ撒かれる。IoT(Internet of Things)なんかで言われる文脈だね。
林: 携帯電話だったり、テレビだったり、いろんなものに組み込まれていけば、それだけで世の中ってもっと変わって、イノベーションが起こせるようになってくると思うんだよね。でも、そういう風になるってことは、そこで勝負している会社の立場で言うと、今の先行優位性みたいなものを継続していかないといけない。コモディティ化して広がっていったら、自分たちの存在が必要とされない可能性だってある。つまり、流行言葉として、ビッグデータ企業ですよ、AI企業ですよ、ではなくて、この業界の中で自分たちをどういう位置付けに置こうかってことを考え抜いていかなくちゃならないね。
例えば、大企業だとR&Dの部署は業務とか事業開発とは実態がかけ離れていて、あまり実業に則した成果に結びつけることが難しい。だけどデータセクションみたいにベンチャー企業は小回りが効いてTry & Errorを繰り返すことが出来る。
河合: なるほど。そういう領域は仮説検証の素早い繰り返しが必要だから、データセクションが強みを発揮できる領域なんだね。
ビッグデータは“水道インフラ”と同じ
河合: 改めて、林さんの話を聞きながら、そして近い未来でデータがどんな風に活用されていくのかみたいなことを想像していくと、松下幸之助の水道哲学を思い浮かべるんだよね。
林: なるほどね。
河合: 水は本来価値のあるものだけど、技術革新、インフラの整備によって、今は殆どタダで、蛇口をひねれば当たり前のように出てくる。つまり、今すでにネットを叩けばいろんな情報がタダで閲覧できるんだけど、ビッグデータ基盤の進化によって、もっとあらゆる情報に対して、誰しもが自由にアクセスできて、簡単に引っ張り出してくることが可能になって、かつこれを他の分析システムやデータ基盤と連携させて・・・みたいなことが可能になる。
蛇口をひねると、あらゆるデータが溢れ出してくるというイメージ。そして、水が人間の生活基盤のひとつであるように、データが産業の基盤になる。
林: そう、そうなんだよね。
河合: で、やっぱり頭のいい奴は、水道水の水を付加価値つけて売るみたいに、溢れ出るデータに分析とか、AIが乗っかってきて、ただの情報をマネタイズしていく。
林: データって、それ単体だと付加価値が無いものじゃない?
例えば、データという見方をすれば、「河合克也」って、ある一人の人の氏名ですっていうことしかないよね。「河合克也」という氏名データに「水上印刷の社長」っていう肩書きデータが加わると、データに価値がついてくる。それを相手にビジネスしたい人がいるからね。さらに、「本社が新宿」というデータが結びついて、あとは「年収」とか、「家族構成」とか、「年齢」とか、こんなですってなってきた時に、そのリストデータがものすごい価値に変わるよね。
河合: つまり、データとデータが結びついていくことで、情報という価値に変わっていくと。
林: そう。そして、これをさらに定性情報なんかを読み込んでいって、例えば、「社長の人たちはマラソンを趣味にしている層が何%程度存在する」とか、「ゴルフが趣味の人が何%いる」ってなってくると、集約された情報が「知識」になるんだよね。そうすると、今度その知識を使って、この層にこんなビジネスの可能性があるんじゃないのってなってくるとか、こんなPRならコンバージョンがいいんじゃないかとかなってくると、今度それが「知恵」になる。
河合: データ→情報→知識→知恵って感じかな。
林: だから、データっていうのは、ビッグデータも何でもそうなんだけど、使わなかったら意味が無くて、使い方によってはものすごい価値になる。水と同じで、それを飲み水として飲むのもいいかもしれないけど、それを氷にするとか、二次加工して製品化するとか、後は料理に使ったりだとか、そんな風に付加価値をつけていくものだと思うんだよね。
河合: アイディアしだいだね。面白いね。
林: 自社の未来を考えると、データの価値をどういう風に生かしていくのかっていうことを考える「ビジネスプロデュース会社」になっていかないと、この業界で生き残っていけないだろうなって思っている。うちらはそういうビジネスプロデュースの常に裏に居る、黒子役みたいなのを目指してるんだよね。
河合: なるほどね。他方、日本はすごくデータに対する規制が邪魔していたり、基盤整備が遅れていると思うんだ。要は個人情報に対する保護なんかが代表例だよね。
林: それから、データを外に出すことに対して判断できる人がいないよね。企業にそういうポジションがない。
河合: まあそうだね。判断ができない、責任が取れないって理由で、「ノー」になるからね。
林: 「ノー」になる。
河合: 平気でリストを金銭で取り引きしている海外とはちょっと違う文化だよね。
林: 海外に積極的に取り組む理由ってそこもあるんだよね。
河合: 要は海外でやっちゃったほうが早いと?
林: そうだね。海外で実績が出てくると、日本って慌てて追いかける国民性だから(笑)。
河合: それは納得。海外で実績をつくってサービスを逆輸入するって発想だね。
さて、最後に人工知能が変える未来の変化について聞いていこうかな。