これからのまちづくり

1 2 3

これからのまちづくり


「コモンズの悲劇」をご存知だろうか。人が個々に経済的に合理的な行動をとると、全ての構成員が被害をこうむるという経済学における法則だ。これは「まちづくり」においても同じ事がいえる。例えば景観が美しい街に、それを眺めて暮らすための高層マンションをこぞって建てれば景観など台無しになってしまうし、街のイメージダウンにも繋がる。
「まち」を「つくる」ということは、何も建築物を物理的に増やしていくことだけではない。
では「まちづくり」とは一体何なのだろうか。

「世界がワクワクするまちづくり」を掲げ、企画から設計、運営までを担う驚きの会社がある。
彼らが考える未来における都市の機能、まちの機能、とは一体どのようなものなのだろうか。
今回はUDS株式会社執行役員 黒田哲二氏に話を伺った。


黒田 哲二
黒田 哲二
UDS株式会社
執行役員
HP:http://www.uds-net.co.jp/
-Profile-
1977年神戸生まれ、東京育ち。東京大学工学部建築学科卒業後、隈研吾建築都市設計事務所を経て、2005年より株式会社都市デザインシステム(現UDS)にて企画開発業務を担当。2008年より森ビル株式会社にて、虎ノ門ヒルズ開発業務に携わり、新虎通りを中心とした活性化、エリアマネジメントを手がける。2015年10月よりUDS株式会社へ復帰。
現在は企画・設計・運営を強みとする同社の「企画」の柱として、国内外問わず、新規プロジェクトに奔走している。
河合 克也
河合 克也
水上印刷株式会社
代表取締役社長HP:http://www.mic-p.com/
-Profile-
2002年、早稲田大学商学部を卒業後、大手FA電機機器メーカーに入社。2007年より水上印刷の経営戦略に参画し、経済産業省商務情報政策局情報政策課への転籍を経験した後、2014年に代表取締役社長に就任。
「製造とサービスの融合」を核にビジネスモデルを掲げ、その基礎となる「ひとづくり」を経営の中心に据える。「お客様の面倒くさいをすべて引き受ける」をコンセプトに、マーケティング、クリエイティブ、ものづくり、 フルフィルメント、ロジスティクス、ICTを自社で一貫して保有し、小売流通企業の販促プロセスにイノベーションを起こしている。
2013年「おもてなし経営企業50選」、2014年「グローバルニッチトップ企業100選」を受賞。
“情熱は世界をより素晴らしいものにできる”をテーマに情熱人にスポットをあてたDigital Magazine「The PASSION」の共同編集長を務める。

コミュニティをつくるコーポラティブハウスのDNA

河合: 黒田さん、ご無沙汰しています。

黒田: そうですよね。

河合: 私の中では森ビルの黒田さんというイメージがあったので、古巣に戻って執行役員になられたとご連絡をいただいたときは少し驚きました。

黒田: (笑)

河合: 本日改めて伺いたいテーマなんですけど、要は「まちづくり」。まちづくりって誰にとっても最も身近で最も不変的で、でも時代や文化・流行、技術と共に進化し続けていく先端のものですよね。
建物や道路、交通インフラといったハードだけでなく、デザインや景観や地域コミュニティといったソフト面、ITやネットワークといったテクノロジーももちろん、住む人、来る人、商売する人、行政、民間、子供からお年寄りまで。
その場所に関わる人たち、挙げたらきりがないくらい多様で複雑な構成の上に成り立っているものだと思いますが、改めて今どんな思いで事業にあたっているのか伺いたいなと思いまして。

黒田: なるほど。なかなか簡単には語り切れないテーマですね。

河合: ですよね(笑)
まず最初にUDSがやっていること、UDSとは何なのか?といったことからお話しいただいていいですか?

黒田: わかりました。

UDSは25年前、1992年に企画・設計会社「都市デザインシステム」として創業し、当時は新しい住まいの選択肢であった「コーポラティブハウス」を住み手のニーズに合わせて提供していました。

河合: UDS株式会社?

黒田: ええ。コーポラティブハウスというのは、建物を建てる前に、まず住む人を集めて、みんなで意見を出し合いながら住まいをつくっていくというものです。いわゆる分譲マンションとは違って、自分のこだわりの住まいが作れるのと、入り口の段階からお隣さんの顔が見えるというのが斬新でした。

河合: なるほど。UDSの役割はどういうものですか?

黒田: UDSの役割というのはコーディネイターです。実際にお住まいになる方と設計者だったり、工事業者との調整だったり。あと当時は建物が建ってないと銀行も担保が無いので、新しいスキームを構築しました。そういった事業全体をコーディネイトするという感じです。

その後は、2003年に「CLASKA」という学芸大学駅から徒歩15分の場所にある古いホテルをリノベーションをしたものや、2006年に実物の3分の2サイズで作った、子供たちが社会の仕組みを学ぶことができる「キッザニア東京」があります。

河合: 一つひとつこだわりをもったプロジェクトばかりですよね。

黒田: デザインだけではなく、「仕組み」も提案したことが評価されていると思います。そこから更に、現在は企画・設計のみでなく「運営」にも取り組んでいます。企画・設計だけをやる会社だったが運営という機能を持ち、他にはない、自分たちで建物・不動産を一気通貫でやれる会社になりました。それが僕らの強みになっていますね。

今はホテルを京都で2件と、横浜で1件、ホステルタイプの宿泊施設を首都圏内で4件、それから飲食店を5件、そのほかシェアハウス、シェアオフィス、学生寮食堂、学童保育からプレーパークまで幅広く運営しています。

河合: なるほど。ちょっとじゃあ少し「まちづくり」というところに話題を移して、きっと「理想的なまちづくりとは?」みたいなテーマの答えって、会社として考えてらっしゃることがあると思うんですけど、このあたりっていかがですか?

黒田: そうですね、僕らはやっぱりコーポラティブハウスからスタートしている会社で、そこのDNAはちゃんと継承していきたいと思っています。コーポラティブハウスの良いところって「コミュニティ」ができるところなんですよね。建物が出来る前に隣近所の方と会って、みんなと話し合って。例えばごみの捨て方どうするかとか。ペット飼っているんだけどどうしようかとか。隣近所がどういう方かわかっていて、そこにコミュニケーションがあると自然にコミュニティが出来上がっていく。

河合: ただカッコいい建物をつくるのではなく、コミュニティをつくることがUDSの本質であると?

黒田: そうですね。僕らがホテルをやっているのも、ホテルが事業として収益を上げるというのもありますけど、“コミュニティをどうつくっていくか”というところを大事にしています。僕らはハイラグジュアリーな、街に閉ざされたホテルをつくるのではなくて、必ずどの拠点にも一階には街の人も来ることが出来る飲食機能をつくっていて、常にその場所でどんなコミュニティを生んでいくかということを考えているので、まずそこは絶対に失わないでいきたいですよね。

写真:コミュニティをつくるコーポラティブハウスのDNA

自然で無理のないコミュニティをつくる

河合: 「コミュニティ」は私も好きな言葉なんですけど、人口の多い都市圏になってくると人の関係性が希薄で「コミュニティ」という言葉を意識しないと生み出せなかったり、逆に地方では、場所やアイデアが欠如していて自然派生的に生まれてこなかったりというのが現実としてあると思うんですが、これに関して感じている問題意識などはありますか?

黒田: そうですね。ここ数年、「コミュニティデザイン」という言葉が使われますが、コミュニティをデザインするということは簡単ではないと思います。

僕は今逗子に住んでいるんですけど、逗子っていいなあと思う所は結構街に居る人の顔が見えているというか、いろんなことが「ちょうど良い」んですよ。

河合: へぇー、逗子ですか?

黒田: 元々、妻の実家だったこともあるんですけど、いろんな大人がいて、いろんな仕事している人がいて、いろんな活動があって、いわゆる大きなチェーン店とかはあまりないんですよね。それだけじゃなくて、自分たちだけで小さなお店の商いが成立しているところがあって、そういう雰囲気がすごい「ちょうど良い」んですよ。

河合: 今やそういう街並みを見つけるほうが大変ですよね。

黒田: そうですね。どこも大きなチェーン店が並び、同じ景観に見えたりする。街の個性が見えるエリアって本当に限られています。

つまり、地域性と利便性の調和がとれた「ちょうど良さ」というのを、どうやってつくっていくのかということを、僕らは考えていかなきゃいけない。

「ワークショップとかまちづくり会議やりましょう」とやっても興味がある人が集まっているだけで、それが本当にコミュニティができあがっている状態かというと、もっと自然体のレベルというか、生活に溶け込んだ無理のない範囲で浸透していないと続いていかない。なかなか難しいところがあるなと思っています。

河合: その通りですよね。一部の人に限られていたり、あまり過度に役回りとか責任を伴って運営されているとそれが負担でもあり、いつのまにか「何のためにこれ運営しているんだっけ?」ということもありますもんね。

黒田: 生活の一部、エコシステムの一部として、コミュニティが存在していることが理想であり、本来コミュニティとはそういう自然派生的なものですよね。

僕の持論になってしまうんだけど、なぜ逗子がそういうコミュニティが成立しているのかというと、やっぱり地域にちゃんとお金が落ちているからだと思っています。
東京からのびる横須賀線が大船、鎌倉、逗子の順で並ぶんですけど、利便性の良い大船まではショッピングモールとか、大きい商業施設があるんですよ。それが鎌倉に行くと一回途切れるんですよね。鎌倉というのは独特で、観光地と高級住宅地といった感じなんです。
大きなチェーン店なんかは、その先にある逗子まではあまり進出してこないんですよね。その代わりに小商いがきちんと成立していて、地域住民がそれを自然と受け入れている。我慢とかではなく、生活として楽しんでお金を落としている。これはすごく重要なことで、地域にお金がちゃんと循環していく仕組みができないとまず街としては成立していかない。

河合: 経済循環ってすごく大切ですよね。享受している価値と支払っている対価とがオフセットしているということですもんね。経済循環を無視した過度な支援や、経済循環=金儲けみたいな文脈になることがありますけど、違和感を覚えます。

黒田: そうですね。

写真:自然で無理のないコミュニティをつくる 

エリアマネジメント=地域が持続する仕組み

黒田: 今「エリアマネジメント」という言葉がよく出ますよね。エリアマネジメント=マルシェとかイベントやります、みたいな話になるんですけど、それを持続していくことは非常に難しい。お金が回っていく仕組みになっていないから、やっている方は段々疲弊してきちゃうんです。
かといって、収益事業になったとして、「金を稼ぐことが悪だ」とか、「コミュニティ=慈善活動じゃないのか」みたいな先入観をもった方も多いですよね。そもそも「NPO=ノンプロフィットの団体なので金稼いじゃいけない」という間違った意識が日本人の中に広がっている。経済循環は永続のために不可欠な仕組みであって、そういうところの意識から変えていかなきゃいけないと思っています。

河合: 全く同感ですね。
ちなみに黒田さんの考える「理想的なエリアマネジメント」というのは、どういったものですか?

黒田: 「エリアマネジメント」はこれからのキーワードになってくるんですが、森ビルが六本木ヒルズをつくった時に「タウンマネジメント」という言葉を打ち出しました。最初にできた時が一番のピークで、話題性があって、人も集まりますがそれ以降は下がっていくというのがこれまでの施設だったんですが、街ができた後もその価値をずっと維持する、あるいは年々良くなるまちづくりを考えたんですね。
ただ、これを実行しようとするとお金がかかります。例えばイベントをやったりだとか、植栽を綺麗に管理したりだとか、施設のメンテナンスだとか。だから、「タウンマネジメント」はそういったことに必要なお金の循環をどこから生むかというのが一番のポイントになります。

河合: そうですよね。コンセプトだけでは価値は上がらないし、放っておいて価値があがるなんてことは基本的にない。当然、お金がかかります。どうされたんですか?

黒田: 「まちをメディア化しよう」と。街全体をメディアとして、消費者と企業をつなぐ媒体として売って、それを原資として街のために使いましょう、という仕組みになりました。そして、このメディア価値がどんどん上がっていけば、さらにまた好循環になっていく。そうすると街全体がどんどん活性化していく。

河合: 面白い発想ですね。でも、六本木ヒルズのあの立地と規模だからこそという気もします。

黒田: その通りです。あれは六本木だから成立したことであって、他のエリアだとなかなか成立しない。なので、地域に合った「価値を持続的に高めていく仕組み」を今度はどうつくっていこうかというところが、僕が最も興味を持っているところです。
エリアマネジメントは一過性の盛り上がりではなく、地域全体で「面」として経済循環をきちんと生み出して、持続的に地域の価値を高めていくことが重要だと思うんですね。

河合: 最初につくった時や手に入れた時が最も価値が高く、後は下がっていくだけというのは、大量生産、大量消費の中で、我々がいつの間にか抱いてしまった間違った価値観かもしれないですね。「持続的に価値があがる」とか「使うほどに価値が上がる」という生活行動に寄り戻っていく世界観が、地球環境との調和を考える上でも重要ですよね。

黒田: 繰り返しますが、僕のまちづくりにおける問題意識は「地域内でどうお金を回していくか」ということであり、これが自然に生活に溶け込んで持続的に続いていくということが大切だというふうに考えているんですね。

また、先ほどの話に戻るんですが、六本木ヒルズのモデルではない「お金を回る仕組み」を考えた時に、注目して一番面白いのは、ITインフラを活用したプラットフォームビジネスじゃないかなって思っているんです。技術の進歩により、世の中がどんどん便利になっていく中で、スマホ一つでお買い物できるシステムがあります。みんなそれを使い始めていると思うんですけど、これって決済機能としても、媒体としても、個人とダイレクトにつながれるインフラですよね。

こういうものが出てきているのに残念だなと思うのが、例えば出張で地方に行って、そこで美味しいもの食べて精算をします、といった時に、チャリーンとやった手数料は中央に落ちる、というところです。その手数料の何%かを地域にちゃんと落とせるような仕組みをつくれば、それを原資にまちづくりができるようになりますよね。

今はブロックチェーンの技術に注目しています。ビットコイン(仮想通貨)というとちょっとイメージ悪いんですけど、この技術を使っていけば、中央の銀行を通さずにこのやり取りができる。その手数料何%かをちゃんと地域に落とし込むような、そういう仕組みが出来ればだいぶ街は変わってくるんじゃないかなという風に考えたりしていますし、今年社外の仲間とそのような事業をつくる会社を立ち上げる予定です。

河合: なるほど。新しいテクノロジーや概念も取り込みつつ、既存の価値にも目を向けて、エネルギーや環境と調和しながら「持続的に循環する仕組み」を構築していくことが、人類の進歩だということでしょうね。

写真:エリアマネジメント=地域が持続する仕組み

最近の投稿