育男たちのリアル

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「イクメン」とは、「子育てする男性(メンズ)」の略語である。2010年6月、長妻昭厚生労働大臣が少子化打開の一助として男性の子育て参加や育児休暇取得促進などを目的とした「イクメンプロジェクト」を始動させたのを切欠に、「イクメン」という言葉が浸透した。2015年、過去最高になったといわれる男性の育児休暇取得率は「2.65%」である。男性の育児休暇が進まない要因は収入減や、復職後が保証されていないこと、周りの理解が得られないことなど様々あるが、なんにしても普通のビジネスマンにはハードルが高い。東京都が行った別の調査では、育休取得を希望する男性の割合は68.9%であると報告されている。
希望していても取得できない人が大半を占める中で働くイクメンのリアルとは?

女性の部下を多く抱え、自らも父親として企業人として日夜奮闘する、イクメン3人に語って貰った。


森山 一輝
水上印刷株式会社
管理部 部長
HP:http://www.mic-p.com/
-Profile-
水上印刷を選んだのは、その風土。活気ある雰囲気と若手が活躍できる機会を与えてもらえそうな期待を感じられたから。14年間営業職に従事し、昨年管理部へ異動。現在は、購買・生産管理・品質管理・制作・ICT部門を統括。営業部門と生産部門の「つなぎ」として管理部を率いる。会社経営に最も重要な資源は、“人”であると考え、人材登用と人材開発にも力を入れている。営業時代から、お客様だけでなくそこに携わるメンバー全員が活かされ幸せに感じられる仕事作りをモットーにしてきた。
チームで成果を上げ、チームが評価されることが大事。家族も同様。家族もチーム。家では、チームの一員として週末の家事アシスタントとイベント企画が担当。3人の娘を擁する5人家族のパパ。
一緒に行う体験・体感を大事にしている。時間があれば、娘たちと外に出掛けるアクティブなパパ。自然と触れ合う公園に山・海、動物園や水族館・博物館施設めぐり、史跡めぐりにも出掛けている。
大谷 洋行
水上印刷株式会社
制作部 次長
HP:http://www.mic-p.com/
-Profile-
水上印刷株式会社制作部次長。
SEを目指し就職活動をする中で「DTP」という仕事を知る。1994年当時まだ黎明期にあったDTP。未開拓の世界に挑戦することに直感的に血が騒ぎ、「おもしろそうだな」と水上印刷へ入社。それから約20年、なおも進化し続けるデジタルの分野を責任者として牽引しつつ、自らも第一線としてその技術を磨き続けている。
2013年には新たに設立した「Creative Lab」の責任者となり、デジタル技術を通じて紙媒体だけではない価値を創ることを夢に突き進む日々。
部下には厳しい一方、週末になると子供3人に囲まれるやさしいパパでもある。


鈴木 淳史
水上印刷株式会社
管理部フルサービス課 課長
HP:http://www.mic-p.com/
-Profile-
就職活動を始めた当初は、「働く」ことが上手くイメージできなかったが、就職活動を進める中で、「業種・職種」で選ぶのではなく、「誰と働きたいか」を重視するようになった。その中で説明会に参加した水上印刷の雰囲気や一体感、勢いに触れ、入社を決意。
入社後、出版関係のクライアントの営業を担当したのち、社内での印刷手配、進行管理を担当。
その後は新規クライアントの立ち上げなどに関わり、手配メンバーを集約したフルサービス課を発足。クライアント・現場双方の目線に立ち、最適なフルサービスを提供できる組織作りを目指す。モットーは「献身」「誠実」「尊重」。
2014年に結婚し、2016年8月に第一子が誕生。休日は妻が外出できるよう子守と家事を担当。妻が外出している隙に、愛する鹿島アントラーズの応援歌を子供に繰り返し歌い聞かせている。

夫、父、ビジネスマンとしての日常

森山:まず鈴木さん、ご出産おめでとうございます。

鈴木:ありがとうございます。

森山:改めて、父親になった感想を聞かせてもらえたらと思いますが、お子さんが生まれてどれくらいですか?

鈴木:生まれてから半年を越えましたね。

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森山:大体1年ぐらいはやれる事は限られていて、おむつを替えるか、人によってはお風呂に入れるぐらいですよね。実感が湧きにくいかなと思うんですけど、結婚して夫になり、子供が生まれて父になり。心境の変化なり、どうですか?
僕と大谷さんは多分忘れかけている(笑)。

大谷:(笑)

鈴木:出産に立ち会ったんですけど、感動しました。すごい大変そうだし、辛そうだし、人はこんな大変な思いをして生まれてくるんだということを改めて思いました。
僕もそうですけど、妻のご両親の喜びがすごかったですね。初孫だったんで。それを見ての実感というのも結構ありました。

森山:父になって改めてこれは大事にしていきたいと思ったこと、何かありますか?

鈴木:日中はずっと子供の世話を妻が見てくれているので、帰ったらその手伝いをしようと思いますし、当然仕事も頑張らないといけない、という意識の変化はありますね。

森山:僕も、多分大谷さんも一緒じゃないかなと思うんですけど、子供ができて世話をするようになって初めて「働くお母さんって、大変だな~」ということをとても感じるようになりましたね。スリークォーター社員(6時間勤務の正社員)の同期もいるので「こういった中で仕事していたんだ!」と、感心するようになりました。

大谷:そうですね。妻が1週間寝込んだときの話ですが、会社行きながら「ちょっとごめん定時で」と言って帰って、ちゃんと世話して寝かせて、ちょっと残った仕事をしてみたいなことをやると、1週間で疲労困憊でしたね。
「大変だな、働きながらやるの」と、ようやく数年前に思ったんです。

森山:僕も一番リアルに感じたのは、妻が病気で寝込んで、当時上の子が幼稚園で、朝お弁当を作って、幼稚園に送りに行って、その後会社に行った時「これ普通にやってるお母さんがすごいな」と。働く女性は本当にすごいなと思いますよね。

大谷:森山さんの家は専業主婦なの?

森山:今のところは。子供が3人いて、末っ子が小学校に行くまでは仕事は難しいと思っています。

大谷:うちは最近、妻が家で仕事するようになったけど、専業のときは僕が家事をやると嫌がることもあったね。専業主婦なんだからこっちの仕事に手を出すな、みたいな。そういうことに俺がしたいだけかもしれないけど。結局は、帰るのも遅いし平日のことは結構任せっきり。

森山:専業の場合、平日はやっぱり任せちゃいますよね。うちの場合、平日は妻が子供といる時間で目いっぱいだから。土日は僕が担当する、みたいな役割です。

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大谷:主婦が土日は育児から離れたい、というのはよく聞くね。

森山:例えば家の事でも、妻が集中してやりたい時もあるじゃないですか。だから、休みの日はなるべく子供との時間を持つのが、自分の役割。遊びに出掛けたり、家の中で面倒見たり。子供と遊ぶのは好きなんで、シーズン毎に遊びを企画したりしますね。春になったら公園巡りとか。
家事の方は……キッチン汚されたくないとか、洗濯のたたみ方が気に入らないとか、余計な事すると怒られるから、風呂掃除とかベランダ掃除とか、掃除系が多いです。
大谷家はどうですか? 特別これっていう大谷家ルールみたいなものはありますか?

大谷:大谷家ルールは特にはないけど。土日は掃除洗濯は、それなりにやりますね。あと子供のしつけ的な話でよく言うのは、両方怒ると行き場がなくなるから。もう妻も僕も最高に頭にきているけどどちらかが怒ったら、どちらかは収める。どちらかが受け止め役にならなきゃ、というのはありますね。

森山:土日の役割はこうとか、平日での役割がこうとか。皆さんやっていることはそれぞれですが、土日と平日で役割を変えているんですね。

イクメンとしてのテーマ

鈴木:僕、おふたりに聞きたいのがイクメンとしてのポリシーやテーマ。うちはまだ子供が生まれたてで全然コミュニケーションが取れないし。

大谷:物心ついてないからね。

鈴木:そうそう(笑)。

森山:教育も含んだテーマということですよね。うちはスポーツや勉強ができるというよりも、何かに器用であるとか、いろんな経験を積むことが出来たらいいなという事を、1つテーマで持っています。

極力、時間があるときはいろんな公園に行ったり、博物館に行ったり。山へ行こう、海へ行こう、お城へ行こう、史跡に行こうとかね。たくさんの体験をさせてあげたいなと。疲れている時も休みのうちの一日は出掛けるように、自分にタスクを課しています。「やりたい」「見てみたい」というものには「やらせてあげよう」みたいな感じでやっていますね。
大谷さんはありますか? イクメンとしてのテーマ、ポリシー。

大谷:うちは妻も俺も勉強嫌いだから、子供が勉強しないのは仕方がないと思っています。でも「宿題ぐらいはちゃんとやれ。そうしたらあとは好きなことやればいい。でもお父さんお母さんが働いて稼いだお金でやるんだから、ダラダラ続けることはやめなさい」と。

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大谷:一番上の子が10歳で、この年齢の子だから仕方ないことだけど「みんながやっているから何となく」ぐらいでやることもある。全然練習しないときはきちんと「本当はあまり興味ないんだったら、他にもっとやりたいことをやったら?」と、話し合いをする。大抵は単なる練習嫌いということに落ち着くんだけど、ある程度上達もしていかないと、楽しくなくなるかなと思うので、そこは流しちゃいけないと思っています。

鈴木:自分たちが振り返ると「もうちょっとやっておけば良かった!」みたいな後悔ってあるじゃないですか。部活にしても、勉強にしても、地域の活動にしても。

大谷:逆に言うと、俺は「やりたくない」と言っていたかもしれないけど、無理やりにでも中学生ぐらいまで楽器とかやらせてくれてれば、何かちょっと格好良かったかなあと思わないこともない。完全に逆恨みだけど(笑)。

森山:そうですね。ある程度自分の道を決められるような年齢になるときに自分もそう思ったから、特技にしても習い事にしても、勉強でもスポーツでも「選択肢が多く持てるようになってくれたらいいな」というところに行き着く。

鈴木:なるほど。参考になります。

森山:鈴木さんは、ありますか? 現時点で。

鈴木:まだないです。自分がサッカーをやっていたので、サッカーをやってくれたらうれしいですけど。大谷さんが言ったみたいにやりたいことをやってほしいし、それが見つかるといいなと思いますね。

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家族ができて増した現実感

大谷:正直なことを言うと子供ができる前、妻と2人だけの時って、仕事で稼ぎ続けなきゃいけないっていう責任感はそこまでなかったよね。「別に2人だけなら何とかなるかな」という気がしていたんだよね。共働きだったからというのもあるけど。

森山:まぁ、それありますよね。

大谷:子供ができると、さすがにちょっと違う。「ちゃんと稼がなければやばいんだな」というような心持ちになる。

森山:やっぱり子供ができて育てる前は、そこまで収入に対する現実感、リアリティがなかったと思います。「どうやって養っていこう」とかいうよりは「結婚したな。ああ、ここまできたか」という方が大きかったですね。

鈴木:そうですね。おふたりも仰ったとおり、僕も妻もそれなりに収入があったんで、生活は何とかなるだろうという感じはあったんですけど、子供ができると変わりますね。30年後、50年後を考えていかなければいけないし。仕事じゃないかもしれないですけど、選挙行こうかなと思いますし。ちゃんと候補者の意見を知るようにもなりましたね。

森山:生活の視点が変わりましたよね。例えば税金や自治体の児童手当とかそういうのもありますし「ベビーカーが通れる道か」や「ベビーカーで通える場所か」を見るようになる。駅前がどういうふうに整備されているか、歩道がいかに広いか、駅からの距離はどれくらいか、そういったことがすごく重要になってくる。

大谷:電車の時間の何分前に家を出るかとか。自分だけのときと圧倒的に違うからね。

鈴木:仕事での変化は?

森山:給与面かな。子供が増えて生活費も増えたので「より成果(給与)を得るには何をしなきゃいけないか」をすごく考えるようになりました。独身のときは単純に「少しでも多くお金が欲しい」みたいな、ざっくりした要求だったけれど、家庭ができてくると「最低限(必要な給与を)定期的にもらうにはどうすれば良いか」と、より現実的で具体的な感じにはなりました。

大谷:金額うんぬんはそこまでシビアに見ていなかったかな。基本楽天家なので。少し別の話だけど、俺は妻が子供を産んで専業になった時点で、給料は2人で稼いでいるという感覚なの。「妻が家のことをやってくれていて、俺が働きに出る」というユニットで給料が生まれている、という感覚なのね。そういう意味では逆に言うと、仕事が忙しいことを言われるのは嫌は嫌なんだよね。「そこが俺の役割じゃん」みたいに思っているから。

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森山:そういう見方もありますね。僕の場合は、仕事でどういう成果を出して、どれくらい結果がお金として返ってくるか。それが自分の生活、家族に還元されるから、そこはかなり意識するようになった。今の方がプレッシャーが大きいですね。

すぐ大きくなりますからね、子供は。食費も衣類代もかかります(泣)。そういう意味でいうと、コスト感覚は本当に身に付いてきたというか、今の仕事にも活きているかなと。

鈴木:家族が増えて、ありがたみをすごく感じる場面が多いですね。普段、日中は妻が子供の面倒を見てくれているので。そういう意味でいうと、結婚して子供もできて充実しているので、部下への想いが高まった。うちの会社のメンバーもみんな、そういうふうに結婚して子供もできていくといいなあと思っています。

森山:若い時は「自分と自分の後輩が、頑張った成果を評価されたらいいなあ」くらいだったけど、最近は僕らの部門もだんだん家族ができたりして、皆の家族の顔もちらついてきますよね。

鈴木:仕事もそうですけど、家庭も充実して、仕事も目いっぱいできるように自分もしたいし、周りもそうしていかないといけないかなと強く思います。

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