数字でする分析、数字では測りきれない魅力
亀田:先生が今のお仕事に至るまでの経歴を聞かせていただけますか。
市村:私はずっとこういう感じで研究者です。大学では経営工学を学んでいました。半分理系ですね。数学はできませんでしたけど。大学院のマスターコースまで経営工学専攻で、ドクターコースが経営学ですね。
亀田:もともと、企業が好きだったんですか。
市村:そうですね。数字を見て分析するのが好きでしたね。
亀田:僕はどちらかというと、ゼミに入っても数字寄りではなくて、マーケティングとか経営戦略に興味があったんですけど。結局、その領域では根拠に数字を出さないと説得力がないということを、先生に教わりました。
市村:そうですね、だけど数字に囚われすぎても、なかなかいいアイディアはできないので。そこのバランスが難しいですね。
亀田:そうなんですよね。企業分析は面白いですよね。
市村:面白いですよ、企業は生きていますからね。時々刻々と変わっていきます。今も、ゼミでは亀田君のときと同じテーマでずっと続けて分析していますけど、発表される内容は毎年違う。
亀田:その中で、僕は企業で働く人に興味をもったわけなんですけど。
市村:企業分析をした結果、人に興味を持つ学生は多いですね。コーチングとかエンゲージメントとか、数字でやりきれないことに、よりいっそう興味を持って進んでいく。
亀田:目に見えないものに魅力を感じるんですよね、どうしても。人の能力って見えないじゃないですか。
市村:こういう風にも言えるけど、ああいう風にも言える。今はそういう時に、数字で実証分析、統計的に検証して、それで根拠にしましょうという研究方法がすごく流行っています。それはその通りなんだけど、そこで語りつくせないこともたくさんあるのでね。
亀田:実際、マーケティングのデータと人が動くデータは全然違うことがある。統計的にこれが流行ると思っても、全然流行らないものもあるし、それが面白いなと。結局サービス業も飲食も、いかに人が集まるか、ですよね。人さえ集まるようになれば勝てる。そういう仕組みが作れたら強いなと考えているんですけど、難しいですよね。
今求められる、情報のつかみ方
亀田:今の学生は当時の僕たちの時と比べて、何か変わりましたか?
市村:二極化している感はありますね。チャレンジングな学生と、保守的な学生に大きく分かれている感じです。チャレンジングな学生は、もう学生のうちから起業してベンチャーを自分で立ち上げる。逆に、今の時代大きな会社はリスクが大きいから、もっと安全なところに行きたいという、保守的な学生も増えていますね。
亀田:大学で教えている授業の内容って基本は変わらないですよね。そういう傾向は、情報を外から仕入れて変わってしまうということでしょうか。
市村:そうでしょうね、SNSの世の中ですからね。
亀田:僕らのときよりずっと発展していますからね。
市村:何か調べようとする時に、亀田君の世代だと、自分でフィールドワークに出て、自分の目で見て探していましたよね。企業に電話をして、企業のカスタマーズサービスや総務に聞いていたんですけど。今は「ググればわかる」。企業にもSNSで聞く。自分がアクティブに動かなくても、情報が手に入るようになっているので。
亀田:便利なのか、不幸なのか、ちょっと考えものですね。
市村:だからこそ、今の学生には「目標を設定してほしい」と思っている。目標が設定されたら、それに向かってどういうふうにやっていくか、自分たちで考えられる。その「目標を自分たちで設定する」というところは、亀田君の時代の方が、より強い意識があったかもしれない。
亀田:そうですね。自分で決めて、自分で確かめに行っていましたね。
市村:今は、情報が正しいかどうかを吟味する力がすごく要求されていると思うんですよね。正しい情報を持っている人とつながることの大切さ。
亀田:営業をやっていて、実際に自分の目で見ないと全然わからないことだらけだと感じました。行ってみたら聞いていた話と全然違うということが、たくさんあります。実際に話を聞きに行って、肌で感じた方がいいなと思うんですけどね。
市村:今が悪いというわけではないと思うんです。世代ごとに性質が違う。今は多くの情報を与えられて、そこから先のアイディアを自分たちで考えて作っていけたら、より先に進めるかもしれないですよね。
亀田:時代観が違う、そこで見つけないといけないものが変わってきている。実はチャンスなんですよね。あとはそれをどう捉えるか。
市村:そういうことができる学生は、非常にユーティリティが高いです。
亀田:仕事を見つけるためにも、情報のつかみ方は大事ですよね。僕もいろんな仕事をしてきてようやく今の仕事を見つけられたので。それを探そうとしないのは、本当にもったいないですよね。学生に転職を勧めるわけではないですけど、何が向いているか向いてないか、好きも嫌いも、やってみないとわからないので、試してほしいと思います。
市村:就職先の探し方も、考えてもらいたい。今、就職活動はマニュアル化されてしまっています。自己分析して、エントリーシートを書いて、エントリーして、あるいはインターンに行って、みんなが同じようなパターンで就職活動する。情報の仕入れ方はインターネットがメインで、亀田君のやっていたような探し方をしている人は、それこそ少ないですよね。
亀田:僕は体当たりタイプなので(笑)。
市村:そこにフィールドワークをやるかやらないかの違いが出ると思うんですよね。ググった結果で自分に向いていると思うのは、ちょっと違うかもしれないし。今の学生は、ググって調べることから先に踏み出さないことが多いから、BtoBの会社に疎いんですよ。
亀田:やはり、メディアに露出しないと学生には届かないんですか。
市村:メディアへの露出があるところや、自分が消費者として接する、あるいはアルバイト先になるようなところしか見えてない。時々、「私は同級生と比べて競争力が強くないと思っているから、BtoBの会社に行きたいんです」というレアな人がいる程度ですが、その学生は一部上場の超大手インフラ企業へ内定しました。
亀田:それは、賢い目ですね。
市村:ほんとに面白い会社は、BtoBだと思いますね。
亀田:僕もそう思います(笑)。