“働く”を控えた若者へ~7年ごしの特別講義~

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#2 冷めない専業主婦願望熱

増え行く専業主婦願望

田中: 私ね、当時印象に残っているエピソードがあって。学生時代、専業主婦になりたいって言っていた子に先生が本を数冊与えて、「それで勉強しなさい」と一言だけ言って、その数日後にその子の考えがガラッと変わって「就職する」って言わせたときは驚きましたね。

浅野: 専業主婦も悪くないんだけど、今ちょうど授業で扱っていて。今、若い人の専業主婦願望って、ものすごく増えてるの。本当にV字カーブでね。なぜ専業主婦願望が高いかっていったら、“なれない”からなの。専業主婦になろうと思っても、それなりな男の人がいないと駄目だもの。

今の時代、500万~600万稼げる男っていないんですよ。12歳上の男はいるわけ。大抵12歳も上なら結婚しているから、これは不倫ですわ。あとは、年下。「あ、この子すごいなあ」っていう子を引っかけていくわけね。いや、本当に。それでしか専業主婦の道はないの。

専業主婦願望と言ってる子に限って、見つからないまま30になっちゃうんだよ。田舎から出てきた子は、そのうち誰かがお見合い写真持ってきて何とか引っかかるかもだけど。もう東京へ来て2世代目、3世代目の人たちは、そういう人もいないし。結局決まらないまま35、 40になっちゃうわけ。多いですよ。

田中: そうか。専業主婦になりたいと思っている人はまだまだ多いんですね。でも、今の時代は難しいですよね。

浅野: もう、そういう願望がものすごく渦巻いてる。価値が上がっちゃったわけ。
日本の高度成長が収束を見せる中、専業主婦を見て育った娘たちの世代が、なりたいって言っても難しい。もうあの時代のような専業主婦はあり得ないんだって言っても駄目なの。結局、その子たちはどうなるんだろうね。分からない、どうなるか。

結婚・出産を機に正社員から非正規社員になって働き続けた場合と、結婚・出産後も正社員として働き続けた場合で、1億近く一生に稼げる金額に違いが出てくる。数字が出てくるとみんな目付き変わるけど、それでも無理だと思う。数字の上でのことを分かってもね。

早く共稼ぎモデル持ってかなきゃいけないんですけども、難しい。なんせ、『昔々あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。おじいさんは山に芝刈りに。おばあさんは川へお洗濯に。』って、幼稚園からもうこればっかりなんですよ。日本人に染み込んでしまっている。

田中: そうですね。男性が働きに出て女性が家庭を守るという概念ですよね。そういう時代ではないと分かっていても、専業主婦への願望は心のどこかで皆持っているのかもしれません。

浅野: だから、専業主婦モデルっていうのと。何て言うの、まあ若いからね、結婚するじゃない。できれば子育てに専念したいと。子育てに専念したいと思って、そのうちに入り込むと10年後になっちゃうわけよ。そうするともう錆ついちゃってるからパートしかないんだよ、パートしか。

やってるのは銀行だけ。大手の銀行は、パートでもう一回呼び出してるわけね。
銀行の世界ってのは、融資とか何かは別にして、「いらっしゃいませ」で何も変わってないの。「税金の支払いですか、ガスですか」とか。何にも変わってないから、彼女たちやれるわけね。同じ会社に呼び出して、生保と銀行はこれで生きてるね。パートの有効活用みたいな。

田中: 銀行の案内役の方ってパートタイムの方だったんですね。

浅野: 一般職で入って、7年~10年働いて辞めて、10年経ってからまたパートで雇って。銀行業界はうまく回してると思う。だけど、本当女性が、まあ1,000万人ぐらいおるわけだよ。で、安倍政権が言ってる「女性の活躍」って、全然機能してないわけね。年齢人口どんどん縮小していってるわけで。

もう一回話戻ると、要するにそういう日本社会において、仕切れて、耳学問ができる明菜さんみたいなのは貴重だと思うよ。だから人事採用でこれからまた採るときもね。パートか正社員か、専業主婦か。そういう問題は置いておいて、まず仕事に目覚める。仕事に目覚めたら、選択させればいいんですけどね。

共働きも出来るっていう日本社会の中で、難しいんですよ。一人育てて大学行くまでに2,000万かかるんだよって言っても分からない、彼女たちはね。自分の親たちは、お母さんたちも何とかやって、2人っ子で、何とかなってるから。だけどね35でも40でも、自分がずっと働いてボーナスもらったら、ケリーバックも買えるよ。海外も旅行行けるよって言うと、ちょっと顔色変える。

写真:増え行く専業主婦願望

田中: そういう話をして、初めて顔色が変わるんですか?

浅野: そこまでいくと。ケリーバックって言わなきゃ駄目。

田中: ものをちゃんと具体的に言わないと駄目ですか(笑)。

浅野: 120万って言わないと。だって専業主婦になったら、まず子供優先だから買ってもらえないわ。でも、働いて消費していけばぐるぐる回るんですよ、日本社会は。でも専業主婦、パートで106万の壁だとそうはならない。消費が回らない。

今日も初っ端計算させたわけ。22で就職して、一般職で30で辞めましたと。この年代の平均年収は320~350で平均値400なの。10年間で400万×10年で4,000万になるんですよ。子育てに奮闘して10経って42歳で、パートを20年くらいやって62で辞めるとすると、パート106万円の壁で100万×20年。幾らですか。2,000万ですと。2,000と4,000と足すと幾らですか。6,000万円です。

サラリーマンの平均生涯年収が2億程で、その人たちの税率は15%ぐらいだから、国としてはそれだけ稼いでくれるとすごい収入になるんですよ。社会保険もありますし。なぜそれを積極的に推進しないかと。なぜだろうと。すごい深刻な問題ですよ。
これは選挙で投票して、票にならないわけね。女性活用って言ったって、「はあ?」でおしまいだから。それに対して、優秀な企業はとにかくいい人材を育て、確保して逃げないようにする。そのための保育所も必要、研修も必要。やらなけりゃ駄目なんですよ。

結局、なぜ女が働くといいか、なんて理論はないんですよ。実績で示すしかないわけ。そういう会社が幾つかできて、そのうち経団連の専門理事になりましたとかね。副会長になりましたってなってくると、変わってくわな。

フランスは、この前までトップは女の人だった。痩せた金髪のお人形さんみたいな感じで。これが経団連のトップかーっていうぐらい。やっぱ違うんだよ、何か。日本ではあり得ない。そういう優秀な企業がどんどん出てきて、それを周りで見ながら、初めて動いてくんじゃない?日本は。難しいと思います。無理だと思うし、専業主婦はもう価値がすごく上がっている。

田中: 専業主婦は価値が高いという考えは持っていなかったですね。“共働き”という言葉がもっと当たり前に世の中に浸透していくといいですね。

浅野: “共働き”というワードから変えていかないと駄目なのかもしれないね。

田中: 確かに、ちょっと貧乏くさいですよね。もっとポジティブなワードに変わると良いですね。

写真:共に働ける社会へ

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