岡村さんのご両親は共に日本人ながら、デンマークに渡って家具デザインのお仕事をされており、ご自身は生まれも育ちもデンマークの首都コペンハーゲンというバックグラウンドを持つ。両親がデザイン関係の仕事に携わっていたことに強く影響を受け、「日本×デンマーク」、「デザイン×ビジネス」という視点から、大学院卒業後の2009年に「ayanomimi」を設立。主にデンマークのデザイン企業の日本進出や日本企業の海外進出に携わる。ビジネスだけではなく、日本、デンマーク両国の大学で講師としても活動する今注目のアントレプレナーに「デザイン」、「ビジネス」とは何かを聞いてみた。
デンマーク、コペンハーゲン生まれ。
7歳の時からアルネヤコブセン設計の個人住宅に暮らす。 地元の幼稚園、学校に通いデンマークの教育を受けて育つ。幼い頃からクリエーターに接する機会に恵まれデザインビジネスに興味を持つようになる。
2006年コペンハーゲン商科大学卒業後大学院に進み、在学中に慶應義塾大学大学院に留学しながらデンマークのデザイン企業の日本セールスを担当。 2009年の卒業後コペンハーゲン商科大学の起業家インキュベーションオフィスCopenhagen School of Entrepreneurshipの一期生となりビジネスコンサルティング会社ayanomimiを設立。
日本とデンマークのポテンシャルを活かしたコンサルティングと新たなビジネスモデルの企画プロデュースを行っている。
大学卒業後、経済産業省に入省。
中小企業政策や福島復興政策、対ASEAN通商政策などに携わった後、2014年に水上印刷株式会社へ入社。
採用担当などを経て、現在は外資系メーカーの営業を担当する傍ら、社内の新規事業開発会議、ビジネス・イノベーション・ブレインストーミング(通称:BIB)を主催し、既存の価値と、新しい価値の融合による新規事業の立ち上げを牽引する。
”情熱は世界をより素晴らしいものにできる”をテーマに情熱人にスポットをあてたDigital Magazine「The PASSION」の共同編集長を務める。
1.デザインとビジネス
松尾:「ayanomimi」がどういう仕事をしているのか、また「ayanomimi」を作ろうと思ったきっかけを聞かせてもらえますか。
岡村:「ayanomimi」は2009年にコペンハーゲンで設立し、主にビジネスのコンサルティングをしています。
日本に進出したいデンマーク企業のビジネスプロセスを考えたり、それに必要なコミュニケーションやブランディングを、言葉を訳すというだけではなくて、文化の違いなどを踏まえた上で行っています。
日本で受け入れられるためには、「同じストーリーでもこういう言い方をしたほうが効果的ですよ」とか、「ビジネスを上手く進めるためにはデンマークではこの順番で物事をやるけれども、日本の場合はまずこれを先に言った方がいいですよ」といったアドバイスをします。デンマークと日本の文化的な違いや共通点がわかるからこそできるコンサルですね。
松尾:どういった分野のコンサルティングになるのですか?
岡村:主な分野は、デザインやインテリア、ファッション、グラフィックや建築などのように、ジャンルは幅広いですけども、クリエイティブなことを軸にしている会社をお手伝いすることが多いです。
松尾:デンマークにもたくさん会社があるなかで、そういったクリエイティブ産業を対象にしようと思った理由はあるんですか?
岡村:両親がデザイン関係の仕事をしているので、小さい時からそういうクリエイティブな仕事にすごく興味を持っていました。私は自らデザイナーになろうとは思わなかったんですけども、デザインをしている環境も好きですし、そういう何もないところから新しい物を作り出すっていう仕事が好きだったというのがあります。
私はコペンハーゲン商科大学というところで、経営学とinter-cultural managementという異文化の間でのビジネスについて学んでいたのも理由の一つです。
松尾:じゃあ、両親がデザイン関係のお仕事をされていたというのと、自分がビジネスを勉強してきたっていうバックボーンがあったってことですね。ちなみになぜ自分がデザイナーにならなかったのですか?
岡村:父が家具のデザインをしているんですけど、家具のデザイナーってすごい専門職なんですね。色んなデザインビジネスがある中で、家具デザインっていうのはやっぱり面白い仕事だなと近くで見ていて思うんですけども、でもまあ中学生の頃から「なんでこんなに儲からないんだろう」って思っていました(笑)
松尾:なるほど、そこか(笑)
岡村:それはうちの父だけじゃなくて。父の仕事柄、色んなデザイナーや建築家の方が家に遊びに来られていたので、幼い頃からそうした方たちとお話する機会が多かったのですが、やっぱりみんな儲かってない(笑)
デザインというすばらしい知的労働に対して、なぜお金がもっとペイされないんだろうっていうのが不思議で。そこから、だんだんビジネスを学ぶようになって。
ビジネスを学ぶうちに、たしかにデザインという仕事は結果が目に見えづらいけども、それを理解した上で始まるビジネスやプロジェクトが増えていけばいいなと思うようになりました。自らデザイナーになるよりは、マネジメントを通じてデザインビジネスをサポートできれば面白いなと。
2.デンマークと日本
松尾:岡村さんがデンマーク育ちの日本人ということで、その二カ国に着眼したというのは自然な流れだと思いますが、客観的に見て日本とデンマークをつなげる面白さというのはどこにあると思いますか?
岡村:まさに自分のバックグラウンドがきっかけではあるんですが、デンマークと日本は互いにとってベストパートナーになれるような要素が多いかなと思っています。
例えばグローバルビジネスの中で、日本もデンマークもコストではまず競争できないっていう国同士なんですね。その中で試行錯誤しなきゃいけない。つまりコスト以外のところで何かオリジナリティを出さなければいけない。
その中でデザインだったり、ブランディングだったり、サービスだったり。新たな付加価値を生みださなければいけないっていうのは、すごく日本もデンマークも状況は似てると思います。
一方で、デンマークと日本で抱えている課題は似ているけど、歴史的な背景とか考え方は違うところも多いので、「私はこれが得意だけどこれが苦手だ」ってことを丁度補い合えたりするのではないかと感じています。例えば、日本やデンマークの企業がヨーロッパ、アジア市場に初めて進出するにあたって、お互いの国をまず足がかりにするとか。特にデンマークは自国の市場が大きくないこともあって、当たり前のように他のヨーロッパ諸国に進出している企業が多い。そういう意味ではヨーロッパ市場に対するコネクションやノウハウがたまっているし。
もちろん経済的な安定や高い教育レベルも大事な要素だと思います。あと無宗教なところとか(笑)
松尾:デンマークも無宗教?
岡村:あんまりこだわらないです。もっとさかのぼると、北欧にはバイキングという文化があったんですけど、バイキングの神話って神様がいっぱいいるんですよ。そういうところが日本に似ていて。
松尾:日本も八百万の神様がいますからね。
岡村:一つの正解が無いというか。他の国よりは一つのものにあまりこだわらないで、「いろんな考えがあってもいいんじゃない?」という考えにシンパシーを感じる人が多いです。そういう意味ではデンマークには親日家もすごく多いですし、日本の思想とか神道とかも「ああ、それは理解できる」って言っている人は多いですね。
松尾:違うものとか多様なものに対してオープン?
岡村:そう。「違い」に対してすごくオープンで、一人ひとりが違うから楽しいよね、みたいなすごくポジティブな考えがデンマークにあると思います。
3.日本への関心の高まりについて
松尾:コペンハーゲンの美術館で「日本から学ぶ」という展示が異例のロングランで開催されていたりと、今日本に対して関心が非常に高まっているという話を聞いています。
まず、日本に対してどういうところに関心を持っているんですか?
岡村:デザイン・ミュージアム・デンマークという美術館で、今、特別展として「Learning from Japan展」が2年間に渡って開催されています。
実は、デンマークのデザインは、この120年前ほどの間に日本からすごく影響を受けていて、ずっと日本から学び続けてきています。日本があったから今のデンマークデザインがあるという展示をデザイン・ミュージアム・デンマークでやっているんですね。
すごく面白い展示で、陶器やテキスタイル、木工など色んなジャンルのものを、日本のものとデンマークのものを照らし合わせて紹介していて。年代別に照らし合わせていくと、途中からどっちのものがデンマークのものでどっちのものが日本のものかわからないんですよ。で、どっちのものが新しいもので、どっちのものが古いのかもわからなくなってくるんです(笑)
120年前に渡ってきた日本の文化についての書物がデザイン学校に伝わって、それを教材や資料として使われたりしたところから始まって、今のデンマークのデザイン業界があります。
デンマークのデザインを見て日本の人が「なんかしっくりくるな」って思うのは、多分、元から日本に影響されていたっていう背景があると思います。「いいな」と思えるものが感覚的に共通していたというか。シンプルさとか。機能性とか。あと、デンマークも日本と同じように資源が少ない国なので、長く大事に使うというところとか。
松尾:確かにそうした感覚は日本人も自然にもつ感覚ですね。
4.Tokyo Denmark Week
松尾:「Tokyo Denmark Week」っていうイベントを今度やるんですよね。
それはどういうイベントなんですか?
岡村:今の話の続きで、少しイベントの背景をお話しすると、「Learning from Japan」という展示を見て、このストーリーはやっぱり今の時代も続けていきたいなって思うし、逆に「Learning from Denmark」ってのも今はすごく重要だと思う。そうした「Learning from Japan」「Learning from Denmark」ってことを歴史として見るのではなくて、120年前からお互いにインスパイアされたように今の時代でもそれができたらいいなと。そういう意味では、「Tokyo Denmark Week」というイベントは、デンマークと日本の出会いがいっぱいあるようなイベントに出来たらいいなと思っています。
去年から始めたイベントなんですけども、ちょうど「Tokyo Design Week」の時期に合わせて開催します。一週間かけて、色んな観点からデザインを取り上げて。特にデンマークと日本のデザインについて色んなゲストスピーカーと一緒にトークイベントをするっていうのを今年もやります。
昨年も開催された日本xデンマーク間を繋ぐイベント「Tokyo Denmark Week」
http://www.ayanomimi.com/ja/work/ayanomimi-tokyo-denmark-week-2015/
松尾:テーマはやっぱりデザイン?
岡村:デザインですね。
デザインといっても街づくりのように大きな意味でのデザインもテーマに含みます。デンマークと日本の事例を比較して、その中でやっぱり共通の課題があって、じゃあそれって一緒に解決するとしたらこんなことできますね、っていうようなトークイベントやパネルディスカッションができたらと思っていて。そうしたテーマについてデンマークのビールとソーセージを食べながら話して、楽しむみたいなイベントです(笑)
ビールも飲みますけど、ビジネスに繋がるような出会いの場を作るっていうのが、一番の趣旨です。
松尾:デンマークの企業と日本の企業や、デンマークのクリエイターと日本のクリエイターをマッチングさせる場というイメージ?
岡村:そうですね。まあマッチングってすごい難しいんですけど、まずはそういうイベントって会うきっかけとか話すきっかけになると思います。
仲良くなるとか知り合いができるとか、そうした小さいことですけども、個人レベルで繋がりができるっていうことがその先のビジネスに繋がるんじゃないかと。遠回りのようで近道なのかなと最近思っていて。
なので、まずは人と人が出会えるっていう場所を作りたいなって思ってます。
一見ビールとソーセージ食べて楽しんでるようですけども、そこから実際去年もいろんな新しいプロジェクトが始まっています。
松尾:今の話で面白いなと思ったのが、最初からビジネスをやろうっていう感じや、そういうパートナーを探そうってことではないというところですね。
最初からビジネスベースだと、自分の今出来る範囲でやれること、自分の考えてる範囲でしか考えない。最初は直接ビジネスに繋がらなくても色々な話をしているうちに、新しい気付きや発見が出てきそうですよね。そういう自分一人では考えつかなかったような事にチャレンジできるのが出会いの魅力だと思います。
岡村:そうですね。そして、そうしたふと湧き出る発見やきっかけを増やして、「じゃあ一緒にやりましょう」ってなったところを「ayanomimi」がじゃあお手伝いしますよ、っていう。
松尾:なるほど。しっかりそこでビジネスにするっていう。
岡村:そうですね。なので、「Tokyo Denmark Week」はそんな出会いの場といいますか、ビジネスの発見の場になればいいなと思って。是非みなさん来てください。来てもらいたいです(笑)
5.デザインとはなにか
松尾:じゃあ、最後にって訳じゃないですけど。難しいんですけど、岡村さんにとって「デザイン」って何ですか?
岡村:難しい質問ですね(笑)
松尾:すみません、なんかちょっと禅問答みたいな質問を最後に。
岡村:私はずっとお話してきたようにデザイナーではないので、まず私はデザインはビジネスだと思ってます。予算や資源など色んな条件がある中で、工夫をしていくってことですかね。
あともう一つ思うのが、最後の「Tokyo Denmark Week」の話で言えば、きっかけを作って、今ある中から新しい発見をするとか当たり前と思っていたことをまた再発見するとか。そういうこともクリエイティブだと思うし、デザインだとは思いますね。
ただ、やっぱり「ayanomimi」として答えるならデザインはビジネスです(笑)
松尾:今日、岡村さんとお話して、物事に対してすごくリアルな見方をする方だなと思いました。デザインというものに囲まれて育ったからこその「デザイナーはなぜ儲からないのだろう?」といった問題意識や、あえて自分はデザイナーにならずにコンサルタントとしてデザイナーをプロデュースすることを選んだこととか。最後の質問に対して「デザインとはビジネス」と言い切っちゃうところとか、岡村さんらしいなと思いました(笑)11月のTokyo Denmark Weekもどういう場になるのか今から非常に楽しみですね。
「Tokyo Denmark Week 2016」はコペンハーゲンでのイベントから!
http://www.ayanomimi.com/ja/crash-course-make-japan/当マガジンでも再びお話を伺ってきました!
http://thepassion.jp/talk/tokyo-denmark-week2016
岡村:みんながやっぱり最終的にビジネスとして成り立たなければ、ちょっと。
松尾:それでいいと思います(笑)
Tokyo Denmark Weekもぜひ取材させていただければと思います。
今日はありがとうございました。
岡村:ありがとうございます。