前職で人材育成に従事していた頃にも接点がありましたが、改めて、コーチングの効用等について、日本有数のエグゼクティブ・コーチング・ファームであるコーチ・エィさんに話を伺いました。
早稲田大学政治経済学部卒業後、NTTコミュニケーションズ株式会社にて、顧客企業の海外進出時におけるグローバルITネットワーク構築や海外拠点内システムの提供などを通じたグローバル事業拡大のサポートに従事する。その後米国現地法人に出向し、日系及び米系顧客向けのソリューション営業にて実績をあげた。また、自社の現地法人や海外のIT企業を巻き込みながら、世界初となる通信技術の実験を日米間で成功させるなど、大型のプロジェクトマネジメントの経験も多数有する。
コーチ・エィでは自らの海外在住経験を活かし、駐在員エグゼクティブをクライアントに多くもつ。
大学卒業後、NTTデータに入社。流通業界向けのITソリューション営業の後、人材開発コンサルタントや公共・金融分野の人事人材開発のプロジェクトリーダーとしてグローバル人材等に携わった後、2016年1月水上印刷株式会社にICT革新部の部門長として参画。
「攻めのIT経営」とグローバル化を推進するため、社内ベンチャーさながらのスタンスでお客様や世の中への貢献と会社の成長に向けて旗を振る。
“情熱は世界をより素晴らしいものにできる”をテーマに情熱人にスポットをあてた本Digital Magazine「The PASSION」の共同編集長を務める。
良いマネージャーの条件
川端: Google社内で「良いマネージャーの条件」というのが言語化されていて。8つくらいかな?条件が書いてありまして、一番上に「良きコーチであること」と書いてあるんですよ。
遠藤: ほう。
川端: 「業務に関して適切なアドバイスができること」というのは8番目、一番下なんですね。なので、もうGoogle内では「業務においてパフォーマンスが出せるからマネージャーになる」という概念は変わってきていると思うんですよね。業務を適切に把握している必要性のプライオリティーは低いと。
その代わりコーチングをして、その人に考えさせて、その人を自発的にしていく。そういうことなんだと思うんですよね。
遠藤: 確かに。日本はまだ、その道の有識者が上のポジションにつきやすいですね。
川端: 私が実際にコーチしていた、多分部下が30人くらいいらした外資系消費財メーカーの営業部長さんがいて、その人の主な仕事は部下との営業同行だったんですが、私がコーチングをやっていて3カ月くらい経った時に「川端さん、もう僕営業同行辞めます」と言われたんですよ。
で、私は焦って「いやいや、辞めちゃってなにするんですか?」みたいなことを言ったら「僕はコーチをする」と。
遠藤: それはまたドラスティックな。
川端: 営業に部下が行く前に「今日の営業でどこまで目指す?」というのを聞いて、「それをどんなふうに実現していく?」「あなたがケアしなきゃいけないのはどんなことなのか?」を質問して考えさせた後に営業に一人で行かせる。
で、帰ってきたら「どうだった?」と振り返りをさせると。「僕が行っちゃうと絶対自分が喋っちゃうから」と。もうそれだけやろうと。
遠藤: かなり我慢が必要そうですね。
川端: 「中長期的にビジネスを拡大させようと思ったら、自分が手を下せるのは限界があるから僕はコーチになる」と仰って、最終的にその営業部門全体として本当に成果を出されたんですね。
遠藤: 一つの変化が組織全体に波及したのですね。
コーチングを受けたクライアントが変わって、時間の管理や使い方、誰と接するかとか、そういう配分が変わったと。その変化がその人の周りに居る人へ作用しはじめた時がコーチングが最も作用しだす瞬間や場面ですよね。
川端: まさに組織にコーチをつけるというのはそういうことかなあ、と思っています。
リーダーというのは小学校の時に学級長をやっているとか、生徒会長をやっているとか、所謂リーダーシップを持った人がリーダーになると一般的には思われてるように思うんですけど、私たちは多分そうではないと思っていて。
リーダーは環境が生むものだというふうに思っているんですね。リーダーが生まれる環境づくりというのは、多分私たちがやっていることの一つなのかな、と思っています。
例えばさっき言ったように一人、リーダーが変わるじゃないですか。その変化が周りからわかるような状態になって「あ、あの人が変わったんだからやっぱり自分も変わろう」とか、もしくはその人が周りのリーダーを作っていくような関わり方を始めるわけですよね。
さっきの消費財メーカーの方の例で言うと、自分が同行しなくなったことによって営業成績が上がらなくなるわけで、営業マンそれぞれが今までと違うリーダーシップスタイルを発揮しないといけなくなる。そういった形でどんどんリーダーを作っていくということを彼はやったんだろうと思っているんですね。
遠藤: リーダーはやっぱり作れるんですね。
川端: そう思います。リーダーシップがあるか・ないかじゃなく、作っていくものだと思っていて、“コーチング”というのはそこに寄与するんじゃないかなと。
“For you”の質問
川端: コーチングは部下の話を傾聴して褒めて、みたいな、優しげなソフトなマネジメントと捉えられがちですけど、私すごく厳しいと思うんですよ。
「結局あんたはなにすんの?」「なにに責任を持つのか」とかをずっと突きつけられるものが“コーチング”じゃないか、と私は捉えています。
遠藤: それは興味深いですね。
私はアクションラーニングコーチの講習の時に「“質問”と“詰問”は違う」とはよく言われたんです。「“詰問”すると人は苦しい。けど“質問”は全然苦しくない。人を引き出す」と。
けど、“質問”は今まさに仰ったように、なんとなく優しい人の言葉みたいな。穏やかにゆったりと包む、みたいな。これはあくまでイメージですが。
川端: わかります(笑)
遠藤: 「いいんだよ、大丈夫だよ」「どうしたいの?」みたいな。
子どもの時には親が子どもに「どうしたいの?」という“質問”が割とあるような気がします。もちろん「ああしなさい」「こうしなさい」と言っちゃう親もいますけど。
でも大きくなる過程で大人の方から指示型のコミュニケーションに変わってしまうことで、”子供のとき”の質問の側面ばかりが印象に残ってしまっているみたいな。
川端: ありうるでしょうね。
遠藤: けれど、川端さんが言ったように“質問”はある意味厳しいと思うんですよ。「で、どうするの?」みたいに。もちろん職場にもあるじゃないですか「で、どうしたいの?」と。
主語を明確にする意味では効き目があると思うのですが、「これ、キツイ“質問”だなあ」「また上司が追いつめてるよ」みたいな面もあったりして、使い方・言い方を間違えるとすごいマイナス。
川端: 使い方一つですよね。
遠藤: その“使う側”と“使われる側”の、質問リテラシーみたいなものがもう少し上がると良いのかな、と思いました。つまり、質問される方も「あ、これくるな」というのがわかれば先に考えるじゃないですか。なんでそれが出来ないのかというと、質問慣れしてないからですよね。
川端: そうですね。
遠藤: 質問慣れをしていないのを時々感じるのは「想定問答」です。お客さんも営業もそうだし、プレスリリースや役員説明もそう。来る質問がわかっているなら、ある程度説明資料入れておけばいいのに、わざわざ個別に全部質問を用意しておくのは、どこか慣れていないのかな、と思ってしまいます。
川端: 慣れていない側面もあるのかもしれませんが、コーチングでは、所謂「正解を答える“質問”」をそもそもしないわけですよ。コーチは正解を知りたいわけじゃないんです。
相手が今まで考えたことが無いようなことだったり、普段忘れていることだったり、そういったものを見つけ出してもらうための“質問”をするわけなんですよね。
なので結構コーチングは受ける方もすごいパワーが要るものなんです。
遠藤: 正解を問わないって、なるほど納得です。腑に落ちました。
川端: すっきりして「今日良かった」と仰って帰られる時もありますが、「あーこんな頭使ったのは久しぶり」みたいな感じでぐったりして帰られる方も結構いらっしゃって。
そういう時間というのは本当に取れてないんだろうなと、よく感じます。
遠藤: 自分が受けたときもそうでした。
川端: ビジネスマンの方と接していて、1ヶ月に1回でもこういう時間があると本当にパフォーマンスが変わるな、と。いつも場当たり的になにかに対処していることを繰り返すのではなく、ここまでやってきたこの1ヶ月をちょっと振り返って、「じゃあ次の1カ月こう過ごそう」というふうに決めるだけでも。
最終的にはゴールに行くとしても、そのゴールに行き着くタイミングを少し早めるとかっていうことはできる。
遠藤: それって普段の、日々のスピード感の中で行われる“質問”と、ちょっと時間のゆとりを持ってする“質問”と深さが違うんですかね?
川端: そうでしょうね。
あとビジネスの現場において、例えば「上司から受ける“質問”」というのは大体「上司のための“質問”」なんですよ。「上司が業務の進捗を把握するために聞いている“質問”」なんです。
でもコーチングの“質問”はフォーミー(for me)じゃなく、フォーユー(for you)なんです。それがすごく大きい。
遠藤: なるほど、180度逆だ!
川端: 私はこの会社に入ってそこに衝撃を受けたんですよ。「前の会社にいた10何年の間、10分間であっても上司が自分のために“質問”をして、時間を作ってくれたことはあったかな?」と思ったんです。
面接や業績目標の面談とかありましたけど、それはやらなければいけなくてやっている時間だったりもしますし。一対一のミーティングは大体「この進捗どうなってる?」「ちゃんとやっているのか?」ということの確認でした。だから、この仕組みやこの対話を職場にもたらすというのが画期的だな、と衝撃を受けたのを覚えていますね。
遠藤: 理想を言えば、普段の日々の中で“質問”がフォーユーであるように投げかけられればベストでしょうね。
私もそうなんですけど、上半期・下半期の面談でメンバーと個室に入って喋る時、雑談から入って、そこそこいろんなこと話してもらうようにしても、かしこまり感が残ってしまうんですね。もちろん部屋を移すからこそ喋れることもあるんですけど、そうではなくて。
普段のオープンスペースの中でフォーユーな“質問”が出し合えると、また違うんでしょうね。
川端: そうかもしれませんね。
短期的にいろんな答えを出していくためにフォーミーの質問ももちろん大事ですが、理想的なことを言うなら、フォーミーとフォーユーを瞬時に適切な形で出せるようになるとマネージャーとしては非常に強いんでしょうね。
遠藤: 使い分けですね。かなり難易度が高いですね(笑)
川端: 本当に。言うのは簡単だけど(笑)
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