コーチング進化論 #5 AI、IoT時代のコーチング

コーチング進化論 #5 AI、IoT時代のコーチング


コーチの語源は馬車。大切な人や大切なものを、目的地に送り届ける役割を担う馬車の意が転じて、相手の目標達成を促す人を“コーチ”と呼ぶようになりました。相手に質問を投げかけ、相手から答えを引き出して“気付き”のプロセスを編み、目標達成を現実のものへ導いていく“コーチング(coaching)”ですが、まだ日本ではコーチングについてよくご存じでない方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
前職で人材育成に従事していた頃にも接点がありましたが、改めて、コーチングの効用等について、日本有数のエグゼクティブ・コーチング・ファームであるコーチ・エィさんに話を伺いました。

川端 絵美
川端 絵美
株式会社 コーチ・エィ
マネージャー/コーチ
HP:https://www.coacha.com/
-Profile-
早稲田大学政治経済学部卒業後、NTTコミュニケーションズ株式会社にて、顧客企業の海外進出時におけるグローバルITネットワーク構築や海外拠点内システムの提供などを通じたグローバル事業拡大のサポートに従事する。その後米国現地法人に出向し、日系及び米系顧客向けのソリューション営業にて実績をあげた。また、自社の現地法人や海外のIT企業を巻き込みながら、世界初となる通信技術の実験を日米間で成功させるなど、大型のプロジェクトマネジメントの経験も多数有する。
コーチ・エィでは自らの海外在住経験を活かし、駐在員エグゼクティブをクライアントに多くもつ。
遠藤 拓哉
遠藤 拓哉
水上印刷株式会社
ICT革新部次長
HP:http://www.mic-p.com/
-Profile-
大学卒業後、NTTデータに入社。流通業界向けのITソリューション営業の後、人材開発コンサルタントや公共・金融分野の人事人材開発のプロジェクトリーダーとしてグローバル人材等に携わった後、2016年1月水上印刷株式会社にICT革新部の部門長として参画。
「攻めのIT経営」とグローバル化を推進するため、社内ベンチャーさながらのスタンスでお客様や世の中への貢献と会社の成長に向けて旗を振る。
“情熱は世界をより素晴らしいものにできる”をテーマに情熱人にスポットをあてた本Digital Magazine「The PASSION」の共同編集長を務める。

1 2 3 4 5

「コンピューターがコーチする時代はくるか」

遠藤: 質問のバリエーションが色々あったり、コーチならではの間合いというのがあるし、人対人だからできることはあると思っているので、私自身はコーチングは人がやり続けることだと思っているんですけど、例えばITを使った方が上手くいく場面があったりとかはするのですか?

川端: コーチングと言ったらいいかちょっとわからないんですけど、実際に何年か前からどこかの軍隊でコンピューターをコーチ役として兵士が“コーチングもどき”を受けている、という実例がもうあるらしいんです。その中身はあまりわかっていないんですけど。中身としては、例えば「今どんな気分なの?」とかそういう質問を投げて、「精神的に若干落ち込んでいる」みたいな答えが返ってきたら、それに対して「軍医に診てもらって」とか、そういうソリューションみたいなものを提供するようなものだと言われています。
“コーチングもどき”のようなことがすでにコンピューターで、AIで行われてるという実態はあるし、今後きっとそういう分野の商品開発や研究開発が進んでいくんだろうなと思います。

遠藤: ほうほう。LINEなど、最近のスマホの中でも簡単なチャットはありますが。

川端: さっき私が言った「人の視点に立った“質問”を受ける」で言うと、おそらく私が考える“質問”よりももちろんAIが考えた“質問”の方が、より幅広くいろんな“質問”を繰り出せると思いますし、先ほどお話した“ペーシング”に関しても、相手の心拍数を捉えるとか、表情を捉えるとか、笑い方を捉えるとか、そういうものもAIを使えばすごく効果的にできるんじゃないかな、と勝手に私は想像したりしているんですけど。

遠藤: じゃあペッパーくんが笑うわけですね?(笑)

川端: (笑)。
とはいえ、「じゃあ何がコンピューターに補えないかな?」と考えた時に、私がこの仕事をやろうと思ったのが、対話をしていて得られる「この人はこんな考えするんだ」「知っているつもりだったのにそんなことも考えていたんだ」という発見や、「私もそう考えていたけど、あなたも同じように思っていたんだ」という共感が私にとっては魅力だったからなんです。
そういうのをもっと追究したいと思ってこの職業を選んでいるんだなと思っているんですけど、そういう面はコンピューターとは分かち合えないものかなと思っています。

「コンピューターがコーチする時代はくるか」

遠藤: それは人に対する興味・関心、共感という感じですかね?

川端: うんうん。

遠藤: ちょっと話がコンピューター寄りになっちゃいますけど、「人間に対する関心」はコンピューターにはないですもんね?

川端: そうですね。

遠藤: 基本的に受動的で、人間と関わりたいと思っているコンピューターはまだいないですよね。

川端: いませんね。あと人間もそうですよね。技術を追求する、とかそういう意味ではあるかもしれないけど、コーチングとして「このコンピューターについてよりよく知りたい」というのは残念ながらまだない。
コンピューターに人格みたいなものが形成されるのは、まだ想像が出来ないですね。

遠藤: そこまでいくんですかね?

川端: うーん。そこは分かりませんが、人材育成のフィールドや、あと組織開発においては、やっぱりコンピューターの活用や応用は広がりますよね。

弊社のコーチング研究所では「誰と誰がどれだけ喋っているか」というデータを取って、縦ラインは喋っているけど横の部長同士が繋がっていないなど、組織内のコミュニケーションを計測して可視化するツール「Socio-Radar™」を開発しています。すでに導入された企業もあって、エグゼクティブ・コーチングに用いられています。

遠藤: それはセンサーかなにかで取ってるんですか?

川端: センサーです。

遠藤: それは御社独自でやっていらっしゃることなんですか?

川端: はい。独自開発でやっていますね。

遠藤: すごいですね。人の導線とコミュニケーションが仕事に影響を与えるということは、やっぱりあるんですか?

川端: 大きいと思いますよ。

遠藤: やはり。それをベースに自分の行動を振り返ることはやっぱり大きい気がします。

川端: 人の代わりというところまではまだまだだと思いますけれども、弊社の社員180人くらいの中にいるリサーチャー約20人が実際のデータを取って来ているんです。
なので、「どういうふうにコミュニケーションが変わったか」というのをデータで見て、自分のコミュニケーションを振り返るということもありますし、先ほどお話ししたようにセンサーでどれだけの時間喋っているかというのを取ることもあります。それを基に自分を振り返るという形でのコンピューター、数字を使っていくというのは身近なところでどんどんやっていますから。
そういう形での使用はまったくそのまま人間の機能よりは出てくると思います。

遠藤: なるほど。コーチは人間であるかもしれないけど、コーチング会社としての専門性の追求というか、新しい探究という意味ではITを活用することは多い。だから代替はないけれども活用は大いにある、と。

川端: 30年後、40年後、50年後はまたちょっとわからないんですけど、すでにそういった形でデータを活用しながらコーチングの質を高めている、組織変革のスピードを速めているというのが今の我々のスタイルですね。そのデータ無くしては組織の実際・実在はわからないですから。人に聞いただけでは好き嫌いも入りますし、主観も入りますし。

遠藤: ファクトですもんね。

川端: そうなんです。ちゃんとファクトを取った上で、そのファクトを見て我々が決めるんじゃなくて、お客さんがそれを見てどう感じるのか。この状態をどうしたらより良いのかというのを考えて頂くという意味で、ITを活用したデータはすでに入り込んできていますね。

遠藤: 面白いですねえ。

川端: 面白いと言えば、Presence Awareness™ といって、会議室のテーブルの真ん中にカメラ機器を置いて、会議中や面談中の役員たちの表情を写真に撮るという弊社が開発したツールがありまして。例えば1時間の会議中、1分間に1回、自動的に表情を撮影していくんです。

遠藤: 撮っているんですか?

川端: 写真を撮っています。その写真を見ると、自分の表情や態度、それによって周囲にどんな影響を与えているかが見えるんですって。「どれだけそれを基に役員会議を活性化できるか」というテーマで使っていただくんですけども。
遠藤: 真ん中に置けば、確かに会議中にあまり意識しないかもしれないですね。

川端: 「自分は笑いもせずにむっすりと喋っているんだ」、「ずっと腕組んでいるんだ」というのを自分でご覧になって、そこで「あ、これはな」とお思うか思わないか。それはある意味事実、ファクトなんですよね。
だからコンピューターだとかデータと一緒にやっていく、ということはもうすでに行っています。

遠藤: ラーニングフォトグラファーという、研修のスタートから最後までずーっと写真を撮っている仕事をしている方がいるのですが、やっぱり振り返りに使われるんですよ。

川端: ああ。でも表情とか変わるんでしょうね。

遠藤: そうなんですよ。どこで変わって、どこで抜けていったか、という変化を追うのです。やっぱり撮る人も上手いので、アップで個人を撮る場合もあれば引きで全体を撮る場合もあって、全体の場がどういう雰囲気なのかとか、緊張しているのか・リラックスしているのかを撮って頂いて皆で見る、というのをやったことがあったので。
そのカメラ、確かにやってみたいですね。やるなら宣言してやったほうがいいのかもしれないですけど。

川端: 宣言してやるんでしょうけど、意外とそういうところで真実が出るんでしょうね。

遠藤: ですね。さっき「コーチが鏡だ」という話を伺いましたけど、文字通り物理的な目に見えるものですもんね、写真は。

川端: はい。コーチだけの主観ではなく、ちゃんとデータを見て、データでもって鏡として示します。

遠藤: 問いかけられて自分の中で行動を振り返るように、目に見えないとなんとなく信用しないですけど、外から情報集めて捉えていくというのは面白いですね。

川端: 気づいてもらうきっかのバリエーションが広がりますね。

「あらためてコーチングの意義を問う」

川端: 私はリーダーを作っていくものがコーチングだと思っています。
例えば組織のトップはなにかやりたい時に、自分一人の力ではできないわけですよね。もっと周囲に影響を与えて、周囲を動かしていってくれるリーダーが組織にいっぱいいないと、やっぱり物事は最終的にはゴールに到達できないわけで。
「リーダーとはなにか」と言われると、例えば社長がやろうと思っていることを自分事として受け止められる人。自分の責任だというふうに引き受けられる人がリーダーなんだと思うんです。それを作っていくのがコーチングだと。

さっきちょっと“質問”か“詰問”かというお話がありましたけど、決して“詰問”ではなく「あなたが当事者として、責任者としてやるんだよ」というのを突きつけていくのがコーチングなのではないか、究極的にはそういうものだと思ってます。

フィールドに出て戦うのはあなたであって。社長がどうのとか、会社がどうのとか、いくらでも言い訳は出来ますけども、そこからちょっと離れて、いろんな環境がある中で自分がやってくんだぞ、ということ、やれるんだという意識を自ら育てられるような“対話”が“コーチング”なのかなと思ってやっていますね。

遠藤: 今でも覚えているのが川端さんに「で、遠藤さんはどうしたいんですか?」と言われたことがあって。多分そこに尽きるのかなと。

川端: そうそう、そうだと思うんですよ。「で?」って。

遠藤: コーチングの究極の一言は「で?」ですよね(笑)「で、あなたは?」って。

川端: はい。遠藤さんも、ご自身やメンバーの方々に是非使ってください。

「あらためてコーチングの意義を問う」

#1 意外と知らないコーチングの中身
#2 コーチする側から見たコーチング
#3 企業でコーチングの導入が進むパターンとネック
#4 言葉に踊らない、実際的なコーチングスキル
#5 AI、IoT時代のコーチング

最近の投稿