恩師を訪ねて ~美術に触れる・旅のすすめ~

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本に学び、旅に学び、本を書く

萬代: 今でもゼミ旅行とか行ったりするんですか?

小川: ゼミ旅行はいろいろ予定が合わなくて、ここ2年くらい行ってないね。

萬代: 私たちの世代はゼミで瀬戸内で芸術祭の取材に行ったじゃないですか。去年また行ってきました(笑)。

本に学び、旅に学び、本を書く

小川: すばらしい(笑)。
あれだけの集団で取材に行くというのも、なかなか得難い経験ですよね。取材に行くのは普通せいぜい1人か2人なので、ああいう経験は普通の出版社でも出来ない。

萬代: そうですよね。
きっと普段の取材の中とは違う感覚で記事が書けるのではないかなと思います。

小川: そうだと思いますよ。旅をするのはすごく大事なことだと思いますね。
違う感覚で文章を書くことが出来ますし、普段と違う場所に行くことで、日本の中であっても違う文化に触れられる。
私は新聞記者時代に全国いろいろなところに取材に行ったんですけど、特に島は文化がそれぞれ違うんですよ。佐渡とか石垣島とか奄美とか、瀬戸内もそうだし。

萬代: 確かに日本だけれど、ちょっと異国感があるというか。なんか、違いますよね。
独自のお祭りとかもあったり。

小川: あと、生態系とかも違ったりしますよね。植物とか。
そういうのが旅をして分かったんですよ。

萬代: 行かなければ分からないことですもんね。
先生は本当にいろいろなところに旅行や取材をされていますよね。

小川: 海外も割と行っていますね。去年は大学の海外研修があって、3ヵ月くらいヨーロッパにいたんです。パリを拠点にして、そこからいろいろな所の取材に行きました。

萬代: 3ヵ月という長さだったら、結構そこの文化に溶け込めますよね。
私は海外に行ったとしても1週間くらいなので、文化の違いにただびっくりして帰ってくるみたいな感じで、向こうの文化に馴染む余裕は今までなかったですね。3ヵ月くらいいたら感覚とかがまた変わるのかなと思います。

小川: 本当は1年くらいいるといいんでしょうけどね。まあ、でも3ヵ月でもだいぶ良かったですよ。

萬代: 日本に帰ってきてから書く記事も変わりそうですね。

小川: そう。だから文章を書くことと、旅をすることを私は授業で「おすすめ」しています(笑)。
旅は健康にも良いし。

萬代: そうですね(笑)。特に学生なんて一番自由の利く時期ですしね。もうちょっと私も行けるときに行っておけば良かったなーという気がします。

小川: 「美術の仕事をしていて良かったな」とつくづく思うことがあります。例えば同じ新聞社の文化部内でも担当が別れているんですね。私は音楽担当や読書担当をやったり、担当ではなかったけれど映画の試写会にも時々行ったことがあります。
映画や音楽の鑑賞は大体2時間くらい座って過ごすじゃないですか。だけど美術は必ず会場を歩く。これが良いなって。

行き詰まった時には、まず立つ

小川: それで、今みんなにおすすめしているのが「立つこと」なんですよ。人間にはいろいろ悩みがあって、よく行き詰まりますよね? 行き詰まった時には、まず立つ。そうすると、血の巡りがそれだけで良くなるの。歩くとさらに良くなります。

萬代: ほー。

小川: 私は、行き詰まっている時に少しトイレに行ったりすると、アイディアが出てくるという経験を何度もしています。風呂の中でひらめくことも多いですね。

萬代: 違う体勢になったり、違う目線になったりすることで頭が活性化したり、スイッチが切り替わるということですかね?

小川: そうそう。
これね、最近理由が分かったの。あるテレビ番組からの知識なのだけど、どうも人間の頭には両耳の辺りに「耳石」というものがあるらしく、それが動くと自律神経を良い具合に刺激して体全体の血流が良くなると。

なるほどね、やっぱり「行き詰まりを打開したい」とか「アイディアを新しく出したい」とか「文章をちゃんと書きたい」とか、そういう時にすごく良いんだ! と思い至ったんですよ。
だから今期の授業から、眠そうな学生が目立ち始めたころに「立つ」という行為を取り入れてみています。

みんなすごく立つのを面倒くさそうにするんですけどね(笑)。

萬代: (笑)。
きっとまだどれだけの効果を発揮するか気付いていないんですよ。まだみんな行き詰まっていないのかもしれないですけど、人間はいつかどこかで行き詰まりますからね。その時に気付いて欲しいですね。

小川: まあ、そういうどうでもいいことを最近よく教えています(笑)。
でも実際授業で私がやっていることは、大体が知識を教えるのではなくて、物の見方とか発想の転換の仕方なので、そういう意味でも非常に重要なことかなと思っています。実際、一度みんなに立ってもらうと、授業の空気が変わります。たぶん、一人ひとりの脳が活性化しているのだと思います。

萬代: そうですね。知識があるのと、それに至るまでの自分の能力とか打開策だとか、そういうものがなければ意味がないですからね。

小川: そうなんですよね。
知識は本を読めば分かるからね。まあ本を読まないと分からないんだけども(笑)。

萬代: 誰かの経験してきたこと、それこそ本になっていないことは聞かないと分からないですからね。

本日は良いお話しが聞けて、本当に面白かったです。行き詰まった時は「立とう」と思いました(笑)。
また今度フィールドワーク設計ゼミの卒業生達で飲みにでも行きましょう。

小川: みんなに会いたいと言っておいてください(笑)。

萬代: 分かりました。伝えておきますね(笑)。

恩師を訪ねて ~美術に触れる・旅のすすめ~

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