日本国内の少子化による慢性的な人材不足の問題に対し、無償の学校という今までになかったアプローチを仕掛けるのはフォースバレー・コンシェルジュ株式会社・代表取締役社長 柴崎洋平。
日本が抱える労働人口減少問題、そして今や経済大国から没落しつつある日本が、グローバルでの採用競争において何をすべきか。「クロスボーダー採用市場の創造」をミッションに掲げ、今期更に6ヶ国8校の開校を予定している躍進する経営者に、リアルな現状を語って貰った。
フォースバレー・コンシェルジュ株式会社 代表取締役社長
1975年東京生まれ。幼少期をロンドンで過ごす。
上智大学卒業後、ソニー株式会社に入社。携帯電話向けカメラの商品企画、半導体の営業・マーケティング、PlayStation3のフォーマット普及に従事。世界を代表する多くのグローバル企業と世界中でビジネスを行う。
2007年ソニー株式会社退社後、同年、フォースバレー・コンシェルジュ株式会社設立。
上智大学非常勤講師(2013年~2016年)。武蔵野大学アドバイザー。世界経済フォーラム(ダボス会議)Young Global Leaders 2013選出。
2002年、早稲田大学商学部を卒業後、大手FA電機機器メーカーに入社。2007年より水上印刷の経営戦略に参画し、経済産業省商務情報政策局情報政策課への転籍を経験した後、2014年に代表取締役社長に就任。
「製造とサービスの融合」を核のビジネスモデルとして掲げ、その基礎となる「ひとづくり」を経営の中心に据える。「お客様の面倒くさいをすべて引き受ける」をコンセプトに、マーケティング、クリエイティブ、ものづくり、 フルフィルメント、ロジスティクス、ICTを自社で一貫して保有し、小売流通企業の販促プロセスにイノベーションを起こしている。
2013年「おもてなし経営企業50選」、2014年「グルーバルニッチトップ企業100選」を受賞。
“情熱は世界をより素晴らしいものにできる”をテーマに情熱人にスポットをあてたDigital Magazine「The PASSION」の共同編集長を務める。
#3「アジア各国での無償日本語学校の設立」
国を巻き込んだプロジェクトモデル
河合: 日本企業で公用語が「英語」と宣言しているのはまだまだ希少で、パッと浮かぶのは楽天さんとファーストリテーリングさんぐらいだと思います。もし、日本企業が「日本語力を求める」ということであれば、日本企業に就職したい外国人にとって、これはやはり大きな障壁になりますよね?
柴崎: その通りで、一番の問題が「日本語力」。今の日本社会では、日本語ができないとやっぱり地域に溶け込めない。結果としての孤立が、犯罪を誘発することもある。
だからこそ、日本で就職する人材には、「たとえ英語で仕事するにしても、日本語はある程度できるかたちで来てもらいたい」、これが本音です。でも、新興国の経済レベルを見たら、日本語学校に入るのは金銭的にも決して楽ではない。そこで我々が考えたのは、これを「無償」で提供していこうということです。
河合: 無償の日本語学校を、各国に創ってしまおうってアイデアですよね。すごい!
柴崎: そうです。日本語はできないけど、専門性を見たら優秀な人材に、日本語を教える。それが我々が現地で立ち上げる、「日本センター」と呼ぶ日本語学校の機能をメインにした職業訓練校です。
河合: この「無償」というのは、どういうビジネスモデルで実現できたんですか?
柴崎: もちろん、我々はボランティアではなく、株式会社。ちゃんと儲けなきゃいけない。ですから、マネタイズは重要です。ただ、新興国での日本語学校の授業料なんて、せいぜい取れて数万円です。たかが知れているんですよ。そもそも、数万円払えなくて大変な人たちもいるのに、ここに新興国の若者たちからお金をいただくことでビジネスを成り立たせたくない。なので思いきって授業料をゼロにして、彼らを最終的に採用する、もしくは採用したい企業から、お金をいただこうというのが、我々のビジネスモデルになります。
河合: なるほど。企業と共に、日本語ができる人材を、アジアのマーケットに育てていこうということですね。
柴崎: もうひとつ大事なのが、各国の行政や公的機関、そして大学の学長を巻き込んでいくことです。普通に考えると、人材獲得を狙う我々は、人材を流出させようとする彼らの敵になってしまうことにもなる。だから、ここをものすごく意識して、win-winとなることを伝えました。
河合: 一方的な人材の流出ではなく、お互いにとって経済効果の大きいプロジェクトですもんね。
柴崎: 例えば、この間立ち上げたベトナム・ダナンの学校は、現地の人民政府が「公認」という形を取ってくれました。ミャンマーで進んでいるプロジェクトでも、教育省が合意してくれている。あとはカンボジアでも、教育大臣がもうすでに快諾をしてくれました。来週はインドも行ってきますけど、経済産業省のバックアップの基に、現地との交渉を進めることが出来ています。
アジア各国と日本の構図というのは、すごいシンプルなんです。彼らは、若者が有り余っているんだよねと。一方日本は、若者が足りないんだよね、ということ。それならお互い補え合えば、バランスよくなるじゃない?ということですよね。
河合: 確かにすごくわかりやすい補完関係ですよね。
柴崎: 日本の優秀なシニア、特にマニュファクチュアリングの分野で豊富な経験のある人をインドに提供して、インドの優秀な若者を日本に送って頂く、ということをやればすごくいい人材交流文化になる。
柴崎: 日本の社会問題を解決するためのソリューションって、実は、アジアの新興国と社会問題をも解決するソリューションだったんですよ。双方のプラスとマイナスを、繋げちゃったらいいねって。
だから、例えば各国の大臣とお会いする時に、「大臣、あなたの国の若い優秀な人に対して、国を超えて日本で学び、そしてトレーニングを受ける機会を提供したい。そして10年後20年後、彼らが政治・経済のリーダーとしてあなたの国に戻ってきたなら、これは両国にとって、とてもいい取り組みじゃないですか」と、伝えるようにしているんです。
河合: 事実だと思うし、それを聞いて悪い印象を持つ大臣はいないでしょうね。
柴崎: もちろん戻らない人も出てくると思いますよ。でも、その時は彼らが日本で活躍していて、あなたの国の人たちの評価がどんどん日本で上がるから、今度は日本企業が進出して投資するってとこに向くはずだと。
そして、「各国政府が力を入れて若者の海外の就職支援をやっているように、あなたの国の若者たちの雇用の場を作り出すことに、我々は貢献できるはずだと。そのための準備期間・教育を我々はこの学校を通してやりたい。あなたの国からは一切受講料をいただきません。全部無償でやります。全部日本企業が、日本側がちゃんとスポンサーになります」。そう言われて気分の悪い大臣はいないはず(笑)
河合: いないでしょうね(笑)
柴崎: こういったかたちで、今度はインド工科大学の中で日本センターを展開していくことも予定していて、これを東南アジア・南アジア全域で推し進めていく。これを、とにかくやっていきます。そして、CSRという観点から、総合商社がスポンサーについてくれています。
河合: 企業と一体となって運営していくことで、学生にとっても「日本企業への就職」という出口が見えやすくなる。これが、アジアの学生にとっても大きなバリューになりますよね。
#1 クロスボーダー人材獲得支援事業に辿り着くまで
#2 減る日本と一筋の光
#3 アジア各国での無償日本語学校の設立
#4 アジアの若者から見た日本で働くことの魅力とは?
#5 クロスボーダー採用が中小企業を救う?
#6 世界から見た日本人ビジネスマンの評価