「B1 Inkjet」「Package Solution」「Digital Post Press」「Smart Work Flow」など、いくつかのキーワードを刻んだDRUPA2016。進化を続ける企業を牽引する3人の若手経営者に「DRUPA2016に見た未来」を語ってもらった。
紙パッケージの製造にいちはやくデジタル印刷機を取り入れ、業界初のパッケージ専門WEBサイト「ハコプレ」を展開。関連サービスとして、「世界に一つの箱」「ポップレ」「ハコプレ紙袋」を展開するなど専門マーケットに特化したWeb to Printサービスで業容を拡大中。そのWebサイト構築、製造プロセスの導入を主導した。
戦略的M&Aによって、6社50億を超えるグループ会社に成長。全グループをつなぐ独自の経営・生産情報システム、現場の「見える化」を推し進め、高い収益を上げる。
動画制作会社や採用コンサルティング事業の立ち上げ、オリジナルプリント壁紙サービスをローンチし、さらなる多角化を推し進める。
「フルサービス」と「ひとづくり」を経営の中心に据える水上印刷の代表取締役社長。「お客様の面倒くさいをすべて引き受ける」をコンセプトに、マーケティング、クリエイティブ、ものづくり、フルフィルメント、ロジスティクス、ICTを自社で一貫して保有し、小売流通企業の販促プロセスにイノベーションを起こしている。
2013年「おもてなし経営企業50選」、2014年「グルーバルニッチトップ企業100選」を受賞。
”情熱は世界をより素晴らしいものにできる”をテーマに情熱人にスポットをあてたDigital Magazine「The PASSION」の共同編集長を務める。
今回のDRUPA2016をどんな風に総括していますか?
鍛治川: 基本的には、世の中で言われることとあまり変わらないなと思ったんですけど、挙げるとしたら、大きく三つ、「デジタル印刷」「後加工の進化」、それから個人的に「中国や台湾の加工機」っていうところにも注目したかな。テーマの一つにもなっているB1インクジェットに関しては、市場に出てくる大体のスケジュール感とか、このぐらいの品質・回転数かなってのが想像できたし、これは大きな収穫だった。
あと、二人は興味なかったかもしれないけど、段ボールのデジタル印刷機ってのが個人的には衝撃を受けて、結構すごかった! 品質が商業印刷ほど求められない分、この分野結構進んじゃうんじゃないかなって。
河合: 段ボールの話面白そうですね。後で、裏で聞かせてください(笑)。
ちなみにスピード感ってのは?
鍛治川: まあリアルに言うと、B1インクジェットがぽろぽろ日本に入って来るのは、2020年時点でも厳しいと思う。早くて5年後くらいじゃないのっていう感覚かな。つまりもう一回DRUPAを挟んで、その後という印象。
河合: なるほど。松岡さんは?どんな感想持ってますか?
松岡: 鍛治川さんが最初に挙げた点に加えるとすると、ワークフローの部分ですね。やっぱり各社しっかり取り組み始めている印象は受けました。まだ実用性に関しては、クエスチョンがありますけど。私たちアサプリ・ホールディングスでは、自社でMIS(経営情報管理システム)を開発してまして、外販もちょうどスタートしたとこなんですけど、理想の形を言うと、WEBを介しての受注と、リモートでの校正のやり取りをして、校正OKになった瞬間に、MISの受注情報が連動して、それが自動で流れていって、工場が稼働する。フルオートメーションっていうのは、オフセット印刷が主力の工場では難しい点もあるかもしれないですけど、デジタル印刷機だったら、面付け・出力まで自動でっていうのは、決して高いハードルではない。Print4.0っていうテーマもあったと思うんですけど、そのコンセプトは僕はそれでいいと思う。
スマートファクトリーは必ずくる未来。最終消費者の指向から、少ロット多品種が進むのは間違いないので、後加工も含めてですけど、自動化できる部分ってのをもっと増やしていきたいですね。それに対してのワークフローは絶対必要不可欠。そして、MISとの連動もですね。
河合: 各メーカーそれぞれの戦略があるのは承知してるけど、僕らユーザー側からすると、ワークフローという観点でいうと、もっとオープンなプラットフォームを目指して欲しいよね。ずっと言われ続けていることではあるけど。デバイス同士もそうだし、MISとの連携もそうだし、前後の工程ともだよね。そのためには、印刷会社側にも自社のIT専属の部隊が必要ではあると思うんだけど。
鍛治川: 河合さんの総括としては?
河合: ここ数年はDRUPAに対して、技術革新がないという意見もあるけど、個人的には「現実味」を感じたDRUPAではあったかな。数年にわたってデジタル印刷機を見てきたけど、バリアブルとか、特殊なビジネスアプリケーション用途ではなく、オフに代わるデジタル機という意味で言うと、サイズA全以上・6000回転以上・両面対応といった仕様をクリアできれば、オフの代替としての導入が現実的になってくるなと考えていた。もちろん導入費用やランニングコストという要素はまだ見えてこないところがあるけど、今回、主力各社が掲げた仕様コンセプトはこれに乗っかってきた気がする。この臨界点を超えてくると、僕たち枚葉オフを主力としてきた会社でも、いよいよデジタル印刷機が主力機として工場に広く導入が広がってくる可能性が飛躍的にでてくると思うんだよね。そして、ここにワークフローが乗っかってくると、松岡さんの言うスマートファクトリーが見えてくるよね。これはワクワクする未来の一つ。
ただ、冒頭に鍛治川さんがいったスケジュール感っていう点で言うと、B1 インクジェット機が実際に品質・コスト面で見合ってくるには、もう少し時間かかりそうな予感もしたかな。2020年よりもう少し先といった鍛治川さんの意見に同じ(笑)
各社の5年後のデジタル印刷化の姿をどう描いていますか?
松岡: うちはジョブ数でいうと、今デジタル印刷機動かしてるのが、まだ1割くらいなんですけど、まぁオリンピックの時に3割くらいいきたいとは思いますね。戦略とか計画ではなくて、期待値ですけど。
河合: うちは加工高ベースだけど、オフセット印刷に対しておおよそ1割がデジタル印刷。まずは2020年東京オリンピックの時に3割ぐらいにしたい。根拠はないけど。希望ね。
鍛治川: 僕ははっきり言うと、印刷業界全体でも、2020年時点では、デジタル印刷機の浸透は3割も全然いかないと思ってる。自社のデジタル印刷の割合は、そうだね、3割ぐらいに持っていきたいけど。
河合: 単純比較はできないけど期せずして同じ数字だね。やっているコア事業はそれぞれ違うけど、要はデジタル印刷化したいボリューム感というか、気持ちは同じ。
松岡: 僕らは商業印刷が主体なので、B1インクジェットとかっていうよりかは、まずは、A3のトナー機なんかをもっとガリガリまわしたいというイメージですね。あとはインクジェットでも、いわゆる大判、ワイドフォーマットですね。販促という分野で、屋外広告とか、イベントの内装なんかの市場を狙っていきたいなって思ってますね。いつも当然デジタル印刷機のコストって話になりますけど、そもそも単価が高いものが刷れればデジタル印刷機も合うと思っているので、そこは希望があるんですね。たとえば壁紙。1枚何銭とか、そんな聞いたことない単位じゃなくて、1枚何百円、何千円ってものが刷れるのであれば僕はデジタルにも希望があるなあって思う。そこはいかに儲ける仕組み、フロントのビジネスモデルを開発するかということに尽きると考えていますけど。そのための取り組みとしてスタートしたのが、カベラボ(※1)という位置づけになるんです。
※1 貼ってはがせるデザイン壁紙 「 カベラボ 」
http://shop.kabelab.jp/
デジタル印刷化を進める上での一番の障害や課題は?
河合: 人材ですね。機械の品質とコストは当然の課題としてあって、それを動かす人っていう話になってくるんだろうなと思う。オペレーターという意味だけではなく、ビジネスとテクノロジーをちゃんとつなげられる人材をどうやって社内で育てていくかなって。すべての設備投資に言えることだけど、機械と人がセットで機能しないと、製造プロセスとして活きてこない。機械だけ「ハイ、ポンって買いました」って言ってもちょっとしんどい。
鍛治川: うん。人材。
松岡: 賛成です。人材ですね。
河合: どんな人材が欲しいみたいな像ってありますか? 鍛治川さんとか、例えば、ハコプレ(※2)進めてて。
※2 紙箱・貼箱の小ロット、超短納期、業界最安値サービスの「 ハコプレ 」
https://www.hacoplay.jp/
鍛治川: 結局デジタルも万能じゃないじゃない。根底にはアナログというか、オフセットの知識がないとトラブるんだよね。簡単に言うと、紙目だったり、色の知識だったり。刷るだけならボタン押せば確かにすぐ出力されるんだけど、「色合わない!」ってなったとき、色合わせるのに基本的な印刷の知識が必要だから、パートの作業者の方だと対応ができないシーンがでてくる。結局、トラブル時はアナログでやんなきゃいけない。もちろん通常のオペレーターとしては、頭数を少なくして、誰でもできるようにっていうことを目指すんだけど、アナログとデジタル両方ができる製造知識を持った人が一定数は絶対に必要だと思うんだよね。そういう人材を生み出していかないとまわしていけない。既存の技術の大切さを感じる。
河合: 鍛治川さんの意見、賛成。そこをもう少し聞きたいんですけど、そうすると、2つアプローチがあって、社内のアナログがわかっている人材にデジタルの知識を注入していく方向性か、外からITデジタル技術とかに詳しい人を連れてきて印刷技術を注入していく方向性か。どっちを目指します?
鍛治川: なんか、両方な気がするよね。パッケージってつらいなって思うのは、単発でデジタル印刷機だけ入れても、ビジネスにならないんだよね。要は、抜きはどうするの?貼りはどうするの?って話になる。そして当然ノウハウも必要。パッケージ専業でやっているからこそ、パッケージのアナログを知っている人を一部引き上げて、知らない人をこっちに引き込んできて、両方で育成ができるっていう体制がないと、デジタルでのビジネスモデルって言うのは成功しないんだなって気がする。
河合: なるほどね。松岡さんはそのへんは?
松岡: 同じですね。デジタル化になっていけばなるほど、技術が平準化していく。その時僕らが進めたいのは「多能化」ですよね。例えば簡単な加工機だったら何台もできるとか。ただ一方で、製造工程がデジタル化されるってことは、その間を繋ぐ仕組み、要はシステム構築の知識が必須ですよね。アナログとデジタルを繋ぐ部分っていうところはどうしても、IT系の人材が必要で、今後そういう人を育てていく、あるいは外から引っ張ってくるっていうところが欠かせないと思います。
河合: 「多能化」と「IT人材」がデジタル化のキーワードになるね。これからは、パートのオペレーター1名で、デジタル機を3台まわすとか、デジタル+複数加工機をまわすということを念頭に、生産現場の工程を設計していくべきだと思う。そして、前工程も含めた工程設計、プロセス構築をできる人材が不可欠。おもしろいのは、ここで改めて、アナログとは言いたくないけど、既存の印刷技術、知識が重要になるという点だね。
後加工のデジタルに関しては、どんな未来が見えそうですか?
河合: デジタルの後加工機に関しては、いくつか革新的な展示があった。単純に、度肝を抜かれる感じ。あんなのが工場にあったら楽しいだろうなぁ。現実的に何に使うかとか、採算性は置いておいて(笑)
鍛治川: 加工の「デジタル」って何をもってデジタルかってところ広すぎると思うんだけど、例えば、パッケージの「抜き」に関していうと、今まさに刃物で行くか、レーザーを導入するか悩んでいるところ。
河合: 結論は?
鍛治川:今はまだ秘密(笑)
あとはうちの場合、「デジタルの貼り機」っていうのも出てこないかなって期待しているんだけどね。
河合: 貼り機でデジタルって何だろうね?どんな機工?
鍛治川: デジタルというか、小ロットもボタン一つ押せばパタパタっと折ってくれるイメージ。結局、ラインが一貫してデジタル化、自動化してこないと効果が薄い。パッケージで言えば、印刷・抜き・貼りの一連ラインをシームレスにつなげていきたい。
松岡: あまり大掛かりなモノでなくて良くて、安価で、職人じゃなくても操作できるっていうところですよね。先程の人材の話でも出ましたけど、パートさんでも操れる機械っていうのが増えてくれば、多能化だったり、省人化につながるので、ここはもっと期待したいですね。
それから、一番最初のオープンなプラットホームの話に戻ると、ボタン一つである程度のところまで自動化されて、印刷から加工機までつながると、コンセプトとして理想的なものが出来上がるんじゃないかって思います。
河合: 自動連携って、アナログで安価な加工機が最も苦手とするところだね(笑)
松岡: 本当ですね(笑)。多様化して、小ロット多品種になってくるのは間違いないので、そこに対応していくスマートファクトリーという方向に、やっぱり近づけていくべきじゃないかなと。
河合: 最後は力技もありだよね。私も、現実的な検討でいくと、大物のデジタル加工機ってちょっとまだ自社にはイメージが沸かないところもあって、まだまだ妄想段階。一方で見えてるのは、細かい加工機はどんどん必要になってくるから、そういうものが多分社内的にも多彩になるだろうなと。それはまだアナログで全然良くて、ただパートさんに扱えるような仕様のものを、とにかく安価で数を揃えて、いろんなパターンを持つ。
松岡: これに関しては機械がずっと回ってなくて良いですもんね。稼働率で考えるというより、必要な時に小さなJOBを社内で回して付加価値を積み上げるっていうことですよね。
河合: そう。だからもちろん、加工機のデジタル化ってまだまだいろんな技術革新が期待できるし、楽しみではあるんだけど、足元でいうと、加工機の情報宝庫みたいな商社機能に期待したいんだよね。加工機の情報をメチャクチャ持っていて、何を問い合わせても回答をくれて、小さな加工機を何でも揃えてくれる人っていう。
一同: それ大賛成(笑)