コントロールできないことでは悩んだり、へこんだりしない。

巨大外食チェーン、マクドナルドのV字回復を支えた立役者、足立光氏。そのとき、何を考え、何を実践したのか。ビジネスマン必見、必殺仕事人の仕事術をおうかがいいたしました。最終回をお送りいたします。(全4回)

足立 光氏

日本マクドナルド株式会社 上席執行役員 マーケティング本部長 足立光さん

HP:http://www.mcdonalds.co.jp/
-Profile-
一橋大学商学部卒業。P&Gジャパン(株)マーケティング部に入社し、日本人初の韓国赴任を経験。ブーズ・アレン・ハミルトン、及び(株)ローランドベルガーを経て、ドイツのヘンケルグループに属するシュワルツコフヘンケル(株)に転身。2005年には同社社長に就任。赤字続きだった業績を急速に回復した実績が評価され、2007年よりヘンケルジャパン(株)取締役 シュワルツコフプロフェッショナル事業本部長を兼務し、2011年からはヘンケルのコスメティック事業の北東・東南アジア全体を統括。(株)ワールド 執行役員 国際本部長を経て、2015年より現職。


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いつお会いしてもパワフルな足立さんですが、へこんだり疲れたりすることってありますか?

あんまりないんですよ。「ストレスフリーで生きる七つの方法」っていうブログを連載したことがあるくらい、あんまりへこまないんですよね。自分でコントロールできないことをあまり考えない。たとえば過去とか、天気が悪いとか、景気が悪いとか、道が混んでるとか、そういうことを考えてもまったく意味がないので、最初から考えません。そうすると、過去のことも含めて、あまり悩まないんですよね。

不満があるときってありますよね。何か嫌なことがあったら常にオプションは3つしかありません。自分はこれを「シンガポール・プリンシプル(シンガポール原則)」って呼んでます。シンガポールって、道に唾吐くと、罰があるんですよ。それでいやだなと思っても、選択肢は、「出て行く、その法律を変える、我慢する」の3つしかないんです。愚痴を言うというのはない。
全部そうですよ。重松さん、旦那さんいらっしゃいますよね。もし旦那さんのある行動がどうしても嫌だと思っても、「(家を)出て行く、旦那さんの行動を変える、我慢をする」その3つしかないんですよ(笑)。
嫌なことがあったとしても、変えるためのアクションをとらないんだったら、我慢するしかないんです。そこで悩んだり、へこむのは、時間の無駄遣いです。まあ、身体が疲れちゃうことはあります。ちょっと肝臓腫れているなってことはあるんですけど、でも心が疲れてしまうことは、あんまりないですかね。

ちなみに身体が疲れたら、どうなさっているんですか?

整体かマッサージに行くようにしています。実は毎週1回くらい、整体かマッサージか、何かの予定をいれてますね。効果てきめんで、何週間か行けないと、体がほんとガチガチになっちゃいますね。

要するに、自分のそういうテンションの上げ方、疲れたときどうするっていうのを完全にわかって、コントロールしているということですね。

わかっているというよりかは、さっき夜の予定がずっと埋まっているという話がありましたよね。
自分、比較的「不健康キャラ」なんですよ。夜は毎日飲んでいるし、寝ないし、なんですけど。この「不健康」きわまりない生活を維持するためには、「健康」な身体じゃなければ。

そうですよね。

だから、不健康な生活をするために、健康には気をつかっています(笑)。例えば、太らないっていうのはそういう理由。太るといろんな数字が悪くなるので。たとえば、肝硬変とかなったら、一発アウトでもう飲めないじゃないですか。みんなにご迷惑かかっちゃう。尿酸値も遺伝で高いんですよ。でもアウトな数値は一回も出たことがない。ギリギリ「高値安定」みたいな感じです(笑)。

今後も悪い数字が出ないことを祈ります。健康に気を使われて、努力をされているということがよくわかりました。

ただ、健康に気をつかってるように、見えないようにしています。「不健康キャラ」もある種のブランディングですからね。結構な頻度でウォーキングに行ったり、こっそり時々ジムとか行ってますが、そんなことしてるとか、一言も言わない。「不健康な生活してる!」キャラで通しています。

足立さんらしいですね(笑)。実は気持ちがへこんだ時にも、これを読んだ方が何か心のスイッチが入ったらいいなと、サイト名をThe Switchにしたのですが、足立さんのスイッチが入る時というのは?

僕自身は、Always onって言っているんですよ。ずっとスイッチオンなので、あまりオフのことがないかな。
さっきも話しましたけれど、僕はあんまりへこまないんです。要は、へこむから立ち直んなくちゃいけないわけで、へこむようなストレスをなくせばいい。予防医学みたいなもんですよ。

例えば、こういうことをしてるから、「コントロールできることしか考えない」というのができるかなというのはありますか?

忙しくしているのは大事だと思います。予定が詰まっていると、余計なこと考える暇がないですからね。暇だとね、あれこれ余計なこと考えちゃうんですよ。

何かに迷ったときどうされますか?

あんまり迷わないんですよね。迷う…、あんまり記憶がないですね。

迷わない理由は?例えば直感が優れているからとか。そういうものがあるんですか?

人はどんなときに迷うんですかね。たとえ五分五分だったとしても、どっちでも決めればいいじゃないですか。どっちかに決める理由がないっていうことは、実は迷う理由もないはずです。だったら、さっさと決めちゃえばいいじゃん、みたいな。迷う理由って、あんまりない気がする。みなさん、保険に入るのにも迷ったりするんですかね。

迷ったりされる方いますね。

保険も簡単で、資産運用の話は別ですけれど。いくら払うと、どういう保障があるとわかっているじゃないですか。要はその生命保険とか、がん保険とか同じことで、自分が早く死ぬかもとか、がんになると思うなら入ったらいいし、ならないと信じてるなら入らなくていい。すごい単純だと思っているんですよ。なので、何に迷うんだろう~ってわからないですよね。

ちなみに迷っている人に、アドバイスってありますか?

「足立さん、相談にのってください」って、結構ひんぱんに、相談を受けます。会って話しますけれど、だいたい迷ってる方は、選択肢と選択基準がはっきりしていない方が多い、という印象です。

今、お聞きしてわかったのは、要するに選択肢と選択基準がはっきりしてないから人は迷うんだから、はっきりさせなさいよとですよね。

選択肢は結構みなさんはっきりしてるんですが、選択基準が曖昧な方が多い。何を大事にしている?何?何?と聞いていくと、本当に大切にしてる選択基準が大体わかります。

お店選びでもきっと迷われないと思いますが、仕事での勝負のお店はありますか。

お店に関しては、何を食べるか、どこで食べるかよりは、誰と食べるかが大事だと思っているんですよ。なので、自分が相手に何かを売り込む側だとしたら、すごい高級料亭に行っても、焼き鳥屋に行ったとしても、店ではなくて自分が印象に残んなくちゃいけないと思います。ですから、店の選択は、相手が好きなもので、雰囲気がよければ、値段とかはあまり重要でないと思ってます。

その時の相手の方との距離感とかどうですか?例えば、カウンターのほうが近くなれるからとか。

二人だったらほぼ間違いなくカウンターにしますね。横でしゃべれるから。正面に座るというのは、実はかなり話しにくいんですよね。逃げ場がないし。カウンターだと、お店の人と話すという逃げ場がある。そうしながら、次の話題を考えたりできる。
ちなみに、カラオケの選曲も、相手や目的によって変えますね。カラオケは自分の歌いたい曲を歌いに行くのではなく、相手に楽しい思いをしてもらい、印象に残ることが目的。

相手の印象に残ることが目的っていう意味は?

一期一会、つまりその方と飲んだり食事をする機会は、もしかして一生で最後かもしれないので、すごい思い出に残るような夜にしたいわけですよ。1対1の場合もそうですが、特に4~6人で飲む場合には、このメンバーで会うのは本当に最後かもしれない。そうすると、この夜が三年くらい語り継げるように、強烈な印象になるように努力しています。大人にもなって、誰かがトイレから動けないとか、両脇抱えられて歩くシーンって、しばらく忘れないですよ(笑)。「あ~、あの日あの日」って、後からでも思い出しますよね。

そのシーンを共有することで、より仲良くなれるっていうイメージですか?

仲良くというより、印象に残るかですね。接待されることもありますけど、接待することもあるじゃないですか。その夜は印象に残したほうがいいんですよ。そうでないと、接待している側もされている側も、意味がないんで。目的は強烈な印象を残すことだと思っています。

何もされなくても、十分強烈な印象を残されると思いますけれど。では足立さんが考える「いい男、いい女」ってどういう人ですか?

いい男、いい女の定義って難しいですねえ。どういう相手かによる、と思います。自分はそもそも、男女あんまり関係なく、一緒にご飯食べて面白い人と面白くない人、という分類しかないです。

面白いっていうのはどういう意味なんですか?

面白いって、一緒に居て楽しいという点と、あとはビジネス的に将来意味がありそう、という点があると思います。実は飲み友達は2種類しかなくて、業界変わっても自分と一緒に遊んでくれる人と、業界変わったら全く疎遠になる人です。
自分としては、少なくとも一緒にいて楽しくて、もしかしていつか仕事でなにかありそうっていう人物として見てもらえるよう、常に努力してます。

私も足立さんにとって、面白くて仕事で何かありそうな人になれるように精進したいと思います。
ありがとうございました。

#1 マーケターから再建請負人、再び人の心を動かすマーケターへ。
#2 仕事を楽しめない人はかわいそうだなと思う。
#3 自分の名前がブランド。だから結果にはこだわる。
#4 コントロールできないことでは悩んだり、へこんだりしない。