「歩く」ことでしか、見えてこないものもある。

窮地に陥ったとき、先を見据えるには何をすればよいのか。
株式会社一の湯 小川晴也さんインタビュー最終回「歩くことでしか見えてこないものもある」をお届けいたします。
小川 晴也
株式会社一の湯 代表取締役 小川 晴也さん

HP:http://www.ichinoyu.co.jp/
-Profile-
株式会社一の湯 代表取締役社長。昭和24年生まれ。昭和39年慶応義塾高等学校、昭和42年慶応義塾大学経済学部卒。高校・大学を通じてゴルフ部に所属。昭和46年日本ユニバック株式会社入社。昭和53年、家業の株式会社一の湯へ。現在に至る。


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晴也さんにとっての幸せはなんですか?

俺にとっての幸せ、んーとね、やっぱ友達が多いってことかな。知ってる人が多いと幸せなの、俺。ただね、忘れちゃうんだよね。すぐに。
友達の定義はね、やっぱ挨拶ができるかどうかだよね。挨拶できれば友達だね。友達が多いと圧倒的に情報量が増えるよね。俺のとこに入ってくる情報は、友達からしか入ってこないから。さっき言った、本は読まない。新聞もほとんど読まない。っていうか見るだけ。インターネットは長いものは全然読まない。3行だから。

私もこっち派です。友達は基本増え続けますよね。幸せはどんどん増え続けてるってことですね。

だと思うよ。そういう感じ。

晴也さんには確かにそういう印象があります。いつもみんなに囲まれて、幸せそうですよね。そういう中でも座右の銘として自分を支えるフレーズってありますか?

んーとね。「そのうち何とかなるだろう」
これはクレイジーキャッツの歌だよ。大好き、あれ。東宝の昔の映画。無責任男
あのシリーズ、、、加山雄三のシリーズとクレイジーキャッツの映画はだいたい2本立てでやってたから。クレイジーキャッツの映画は見たほうがいいよ。
最高だよ。わかっちゃいるけどやめられない!からはじまるからね。そのうち何とかなる!いいでしょ?

ということは、「今なんとかしなきゃいけない状況」があるから「そのうちなんとかなるだろう」って思うわけですよね。

そうそう、何ともならないところにぶつかって、そうするとね、考えて…。例えば東日本の大震災のときに、これ東京にいるより箱根に行ったほうがいいなって思ったんだよ。どうしてかっていうと、箱根に行って、風呂の中に入って、普通は胸の辺までしか入らないけど、頭まで入ると、地震が来ても何にもしないですむだろうと思ったわけ。がんばって頭まで入れば、上をほとんどすべてのものが通り過ぎているから、大丈夫だなって思ったわけ。
だって地震なんてほんの数秒だもん。あの一瞬でなんかおこんなきゃいいわけだから。要するにさ、どうにもなんないときはじっとしておけばいいってことだね。それが東日本のときね。後ひとつ、頭が狂っちゃうっていうほどどうしようもないときは歩けばいい。のりものに乗るより歩いたほうがいい。歩くとすごくよく見えんだよ。スピードがあってるから。人間の目に。

歩くと良く見える?

うん見える。まず簡単に言うと景色が良く見える。スピードがあってるから。そうすると、見るとくだらないことなんだけど、何かを見てぜんぜん違うことを思いだすんだよ。スピードあってるから。自動車も自転車も人間のスピードじゃないから、入ってくるものが早すぎちゃってピンとこないんだよ。新幹線も飛行機もだめ。歩くのが一番いいね。松尾芭蕉はだからきっと歩いたんだよね。

なるほど~。深すぎる。

40億円借りてめちゃくちゃになったときに、「歩け」って人に言われて、箱根の家から小田原の駅まで歩いたんだよね。2時間半くらいかかるんだけど。普通は国道をピューっといって通り過ぎちゃうところをとぼとぼ歩いて行って、そしたら、「こんなところにこんなもんがあったんだ」ってね。いろんなとこを見て、俺、いちばんすごいハッキリとわかったのは、雨が降って傘がないんだけど、道路の端っこを歩くと雨にぬれないってわかったんだよ。
不思議なんだけど、真ん中歩いてるよりはるかに濡れないんだよ。なるほど~と思って、だから、何かひでーことが起こったら、しゃしゃりでていったら駄目なんだよな。ぐっとこう控えてね。歩いているだけで、いろいろと分かるんだよ。
歩くって言うのをやり始めたのは、困ったときだから、その後も、ともかくなんか機会があったら歩くんだよ。電車乗ったほうがいいんだけど、時間があるときは歩くってやってたわけ。

最後に、老舗を継いだりとか、今後継ごうとかという方に向けてなにか伝えたいことはありますか?

自分の店だけ守るって言うんだったら、2人か3人でいいんかもしれないけど、でも、全部ここに居る人、家族、責任を感じるようになると、それぽっちじゃちょっとできないなと。もっと、インプルーブすることを考えないと、できないんじゃないかなと。
一番重要なのはね。さっきの社会貢献でもあるけれど、仕事だけじゃなくて、やっぱり人間を作んなきゃいけない。俺の考え方はね、80年でね、最初の20年は教育機関だから親にね、つぎの20年間は会社入ったりすると仕事はじまるじゃない。でもこれトレーニング期間なんだよね。で、40~60が貢献の期間なんだよ。

最近伸びてるとはいえ、企業では60歳が定年ですよね。

で、60~80はある意味で余生なんだけど、ここはまあ好き勝手やんなきゃいけないんだけど、で、重要なのはね、2回目の20年、20~40の間に何らかの格好で要するに技術を身につけないとだめなんだ。
だから会社をやるのなら、自分の会社の人に技術を植えつけられる道具と内容を持ってなきゃ駄目なんだ。勝手にやれじゃ駄目なんだ。20年教育。そうすると、ここでうまくいくとね、自分の会社で活躍する人もいれば、途中でドロップアウトして出て行く人もいれば、どっちもいてもいいんだけど、ドロップアウトしたやつでも、技術で食えないことはない。そのくらい普遍性っていうか、オープンでなきゃまずい。クローズではだめなんだ。

20年教育ですか。私も間もなく、その教育期間が終わろうとしています。

それで40から60までの間ってのは、残った人はだいたい100人分くらい働くかんじ。だからうちの会社にいて、40から60活躍したい人は100人分稼ぐというつもりでいてちょうだいよと。いう感じなの。で60から80はもう好きなことしていい。何してもいい。そのかわり60~80まで年金も含めてだけど、20年間は働かなくても食えるようにしてあげなきゃいけない。で、国家の年金はもう破綻しちゃったから、だから実は企業にここゆだねられてるんだよね。担い手としてはさ。だから起業家になろうとしている人は、この理屈をよく頭の中に入れて、リスクと責任すごいよと。やるからには。かっこよく社長になろうっていっても大変だよと。

本当にすごいリスクと責任ですね。

60歳が70歳になるかもしれないけど、定年で会社には居ないけど、理想の形は、だまっててもお金が入ってくる形にしてあげないと。
今、これが可能なのってさ、立派な会社の取締役だったような人たちが、いろんな年金や積み立てなんかで、月収100万あるって人がいるけど、ごく一部だ。あれが普遍的になる
一方でね、お金あげなくてもね、物価さげればいいんだよ。だからデフレがだめだっていうのは全く本当はよくないんだよ。デフレでいいんだよ。はっきり言うと。デフレでいい。
だからやっぱり政治学的にもね。もっと本筋の論議をしなきゃだめなんだよ。

でもそれ言い出したら、国が年金ちゃんとしてくれよって思っちゃうんですが駄目ですか?

いいんだよ。でも国がちゃんとやるってことはさ、人口構成が違っちゃってるから駄目なんだよ。もしかして増えないって人口構成を考えなかったんだよね、昭和30年代には。だから企業がやればいいんだよ。企業をやるって人はそこまで考えてやる。
そこでさっき言った、No.1かどうかっていうのはさ、俺に言わせるとこういうのを考えるかどうかなんだよ。

二流でよければ考えなくていいってことですね。

そうそうそう。でも考えないと立ち行かないよ。これ。
人、入ってこなくなっちゃうから。もうあからさまにさ。この会社何も考えてないってことになると。結局就職して、すごく裏切られるケースって多いから、みんなさ、非常に疑心暗鬼になるじゃない。だからそれをそうじゃないっていうのをみせてあげないと。やっぱ人は働きにこなくなちゃうよね。
俺は知っている限りの中では一番でいたいからね、そういうことまで考えて実践していくよ、これからも。


衰えることを知らないどころか、ますます進化し続ける小川晴也さん。68歳。
こんな大人になりたいと思わされる豪快さと真っ直ぐさ。

今回の機会をいただけたことに感謝いたします。これからも良き師匠でいてください!

#1 はんこを押してリスクを背負う、 それが俺の仕事だね。
#2 「社会的意義」をでっかくする、そのための「生産性」なんだ。
#3 人と体験から学ぶから、人付き合いが一番大事。
#4 「歩く」ことでしか、見えてこないものもある。