「社会的意義」をでっかくする、そのための「生産性」なんだ。

老舗旅館を継ぎ、拡大・成長し続ける株式会社一の湯 代表取締役 小川晴也氏。
その成長の秘訣とはなんなのか。全四回インタビュー、第二回は「社会的意義を大きくするための生産性」をお届け致します。
小川 晴也

株式会社一の湯 代表取締役 小川 晴也さん

HP:http://www.ichinoyu.co.jp/
-Profile-
株式会社一の湯 代表取締役社長。昭和24年生まれ。昭和39年慶応義塾高等学校、昭和42年慶応義塾大学経済学部卒。高校・大学を通じてゴルフ部に所属。昭和46年日本ユニバック株式会社入社。昭和53年、家業の株式会社一の湯へ。現在に至る。


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晴也さんは、今は何のためにその仕事をされているのですか?

今はね、カッコよく言うと、社会的意義があるかどうかだよ。仕事を通じてね。C to Cビジネスだから、Cが喜んでくれたらいいわけだね。おいでになったお客様が喜ぶっていうのが最大なんだ。それを満たすためには、まあ、性能だとか、品質だといろいろあると思うんだけど、どうしても最後はやっぱり価格。いろんな要素はあるんだけど、俺にとっては価格が一番大事だね。

価格設定も、ターゲットをどこにおくのかというのが重要かと思うのですが。

そこは論議になるんだけど、おれはターゲットは一切置かない。みんな「あそこ狙ってやる」ってマーケティングやるんだけど、それはうまくいかないんだよ。狙ってもこっちからお客さん来ちゃったりするんだよ。それを「狙ってないからお客さんじゃない」とは言えないじゃない。
つまり「来たお客さんが、うちのターゲット」なんだよ。で、来たお客さんが何を選ぶか、一番最初に選ぶのは価格なんだよ。「私はいくらくらいのものが買いたい!!」というのからくる。千万円のもの買いたい場合もあるし、一円でも安いほうがいいって時もあるし、一人の人間が時と場合で、いろんな面をもってるから、ターゲットっていったら、どこで割り切るか。価格が一番簡単なんだよ。

どこの価格帯で出したいのですか?

それは一番安いところ。客層も多くて広いんだよ。それもう間違いない。高ければ高いほど、客層は狭くて少ない。広くて多いほうが最終的には社会貢献できるんだよ。だから、そこに行ってるわけ。

よくアメリカで研修ツアーされてらっしゃるじゃないですか。

アメリカの小売は価格がものすごくはっきりとしてる。うちの店はこの値段で売りますというのがはっきりとしてるから、買う側からすると店を選ぶのは簡単だよ。要するに価格と陳列量を調べて、結果としてそれが見えるのを体験させるのが研修の狙い。ホテルもフードサービスも、最終的に、こう統計表とかを見ると上位何社というのは、安いものを売ってるところから順番に並んでるんだよ。
売上高とか何でもいいけど、とにかく並べると、絶対に安いもの売ってるとこしか上にこない。そこに大きな示唆があるから。

一の湯さんもそういうランキングで上のほうに行きたいのですね。

社会的意義を最終的にでっかくしたいからね。積を大きくしたい。要するに、消費額と人数ででてくるけれども、やっぱり人数が多くないと社会貢献にはならない。部屋数が多くならないと人数多くならないから、だから部屋数を1個でも増やしていこうっていうことで、やっていくわけ。

では、今やっておられる箱根以外で展開も考えていらっしゃるということですか?

こういう大きなビジョンがあった上で、実際にやってくと、効率と戦略上で集積したほうがいいんだよ。今のところはまだ初期段階なんで、箱根にしか出さないんだけど、箱根で10%というと飽和状態だと思ってるから、あと2.5倍くらいはできる。
そういう風にやって飽和したときには、第二商勢圏っていうんだけど、どっかに行かなきゃいけないんだよ。でもポツンといってもだめで、本部機能を全部もっていかなきゃいけない。
デパートやイオンやヨーカ堂が店出すのとぜんぜん違う。うちのレベルだと、旅館3軒くらいと本部機能でボンと行かなきゃならない。2、3年くらいの間に3軒くらいだせるようなところを探していて、そこなら行っても大丈夫なんじゃない?

それって何年後ぐらいには?

昔はね、いつになるかわかんねーなと思ってたけど、今の段階だともう3,4年後には第二商勢圏を考えなきゃいけないかな。だから今からちょっと準備しとかなきゃだめかもね。間に合わない。
それはね、結局そこでのシェアを10%とるっていうのがあるからね、その時間がどのくらいかかるのかわかんないよね。でもまあ、やってるうちにスピード速くなるかもだからね。こちらのもいろいろな財がたまってくるからね。お金も、知的な財もたまって、スピードが上がってくる可能性は高い。

そうすると、これまでかかった半分の20年で次のシェア10%獲得ができるかもということですかね。

あると思うよ。主にマネジメント力にかかっているね。人間の力なんだけど、いかに厳正なる行動を取る人が何人いるかってことになるんだけど。

厳正なる行動っていうのは、コンプライアンス的な話ですか?

もちろんコンプライアンスもそうだし、あと、マニュアル守るとか、何かの標準に対してそれがあってるか間違ってるかが必ずわかるっていう。
たとえば何かを動かすのに、いろいろな道があるわけじゃない。一番早いのは、これだってうちで決めたら、みんながこう動かすっていう風にするかどうか。こういう人もいれば、こういう人もいるっていうんじゃ困るんだよ。
すっと行くように、お手本があることも重要なんだけど、手本に沿って訓練するって言うのを地道にやることが大事。「言ったんですけど、できないんですよ~」っていう愚痴を言わないようにしないといけない。「毎日言ってんですけどできないんですよ」って言わないで、黙ってるとみんながこういう風にできるようになりましたって風に、それが俺の考える厳正なる行動。

そういう厳正なる行動ができる人の条件みたいなものはあるんですか?

訓練だからさ、別に条件なんてないよ。誰でもできるよ。重要なのは、動機付けかな。だから、どんな人でも、何のためにやるのかっていう動機付けをおんなじところにもてるかどうか。それも一種の訓練だ。上も下も訓練だよね。

何のためにやるのかは、今の一の湯さんだと、どういう風にされてるのですか?

「社会的貢献」がでかいのだけど、そのためにとずっとやってくと、いろんな整備しないといけないことがでてくるんだよ。うちの場合は、その時に最初に手をつけられそうだなと思ったのが、「生産性を高める」だったわけ。だから、もう今までは生産性だけしかやっていない。

一の湯さんの生産性について、もう少し詳しく教えてください。

うちの場合は、生産性は数字。下が労働時間、分母だよね。労働時間の総和。上が粗利益高。粗利益高。粗利益高は(売り上げ-仕入れ)だから。この3つの数字しか使わない。それが、割り算するとね、そのあるべき姿っていうのは5000円なんだけど、一人1時間当たりの稼ぎ高が5000円こと。そういう風にしましょうって。それだけなんだ、うちの指標は。
この5000円ってすごい意味があって、2000時間働くと1千万円なんだ。年間で。一人が1千万円稼げば、そこから35、6%給料をとっても、350万円もらえるわけだ。平均賃金で。
そうするとまあまあイッパシなんだな。それは800万もらえるやつもいればいろいろ入るけど、最初に入ってくる人は200万円くらいだから、平均年収350万円が確保されれば、サービス業ではいいほうだから、だからその5000円ってすごく意味があるんだよ。

この5000円は、時代とともに少しずつ変わるってことですか?

そうだね。上がっていくんじゃないの。だんだん。だから今、安倍内閣でも、生産性高めましょうで数字出さないから、ばかじゃねーかと思う。数字出さなきゃしょうがないじゃん。

数字以外に判定できないですよね。

できないでしょ。だからね、何でもいいんだよ、この類の数字がでてきたら。年間1千万円の生産性つくるには業種によって変わってくるわけだよ。つまり、粗利益高が違ってくると、ぜんぜん違うんだよ。
だから、例えば、小売業で言うと、ディスカウントハウスなんかは、粗利って言うのは15、6%しかないんだよ。ダイソーなんかでも20%あるかないか、一方で背広屋とかだと、粗利は50%かな。倍がけで売れる。最低でも一人1年間で1千万稼いでくれよっていうので、自分の業種に必要な売上高って逆算できるんだよね。旅館の場合は、粗利益率っていうのは75%くらい。

それは高いですね。

高い。宿泊業で、買うものって食材がほとんど。それは2割5分くらいしか買わない。粗利が高いって言うのはどういうことかっていうと、それで安心しちゃうから、マネジメント力が実は弱いとも言える。
逆に言えばディスカウント屋はマネジメント力がすごいよ。100円売って16円しか儲からない。その16円で利益を出そうっていうんだから。すごいよ。

だから、そういう業種の優良企業から学ぶってことですね。

そう。どんな宿を作るかは社長の責任で、働いている人の責任じゃない。ここの部屋一日一万円かかるよっていわれても、しょうがないじゃない。部屋の代金は簡単に言うと償却費。土地代とか、もし借りていたら家賃。そういったものは部屋代の原価だよね。それは変動費じゃないから、お客さんいてもいなくてもかかる。だから要するに客数が変動しても変わんないから、生産性には入れない。

そうすることによって、みんなが自分と生産性を関連付けて考えられるってことですよね。

第二回は、顧客ターゲットを置かないということと、生産性についてのお話をお聞きしました。世の中のマーケティングの概念を崩されるようなお話もありましたが、「一番最初に選ぶのが価格だから一番安い価格で出す」というお話は、大変もっともだと感動いたしました。また、生産性は数字の議論なのに数字を明確にしていないことが多い中、自社ではきちんと数字で社員と共有している点が素晴らしいと感じました。
次回は、「人と体験から学ぶから、人付き合いが一番大事」です。なぜ晴也さんに、こんなにも沢山のお友達がいらっしゃるのかを垣間見させていただきましたので、お楽しみに!

#1 はんこを押してリスクを背負う、 それが俺の仕事だね。
#2 「社会的意義」をでっかくする、そのための「生産性」なんだ。
#3 人と体験から学ぶから、人付き合いが一番大事。
#4 「歩く」ことでしか、見えてこないものもある。