吉住さんの手がける風力発電事業は、何年もかけてひとつのプロジェクトを組み上げるビジネスです。
第2回は、その熱い思いをお聞きしました。
吉住 謙
HP:http://css-holdings.com/index.html/
-Profile-
中央大学商学部卒業。株式会社トーメン(現、豊田通商株式会社)に入社、船舶海洋機器部に所属。その後電力事業本部に異動し、日米欧の多くの風力発電事業に携わる。2001年に株式会社ウィンネックスを設立、2002年に株式会社ウィンドバンクを設立し、九州、四国、中国、東北及び北海道で大規模風力発電事業のデベロップメントを推進。2013年に株式会社CSSを設立し、大型メガソーラー事業を全国で開発しながら、大規模風力発電事業のデベロップメントを推進。現在、北海道及び東北地方を中心に、多数の大型再エネプロジェクトを自社で保有・運営し、今後は全精力を傾けて過去最大規模の事業開発に挑む。
この仕事を通じて理想郷みたいなものはありますか?
3.11以降、原発については本当に多くの問題が指摘されてきました。
再エネを積極的に進めている人たちの多くが原発反対派だと思います。少なくとも賛成派はいないと思います。
ただ僕は、原発をなくしたいから風車だというように、風力発電を原発に代替する電源の選択肢としては考えてきませんでした。今も単純にそういうことではないと思います。
ただそれでもやはり、再エネで相当量の国の電源が賄えるんであれば、それはとてもいいことだなと素直に思います。
この仕事は正直いつ店を畳まなければいけないかなという思いでやってきましたけど、今は、どうやら再エネっていうのは、世界的にも止めることのできない「うねり」になっているなと感じています。そうであればやはり仕事を通じての理想郷は、再エネ事業のよりよき拡充ということになります。
勧善懲悪のテレビの世界ではないから、当然その裏側では沈没するものも失うものもきっとあるから、単純に再エネだけがいいというような、再エネをヒーローとして捉えているわけではないんです。けれども確たるトレンドとして、再エネが確実に広がっていく中で、日本という小さなマーケットではありますが、その一翼を担っていけるというのは非常に誇り高いなと思っています。
すばらしいビジネスとされてるなと思っています。
お客様への想いを聞かせてください。
お客様っているようでいないですので、「想い」というものがあるとしたら、一緒に働いてくれる人たちに対してです。一緒に開発をして、一緒に建設をして、一緒に事業を推進していく多くのパートナーが、いわばお客様なのかなと思います。
僕みたいにカツカツで食いつなぎながら何とかここまでやってこれた人間が、これだけ大きな仕掛けを打ち続けられるっていうのも、ひとえにそういう人たちのサポートがあったからです。それと、世界的に余っているお金が今再エネに向かってきていますから、そういう意味では金融機関というのも非常に重要なパートナーですね。
いわばテコの原理で、こういう小さな会社が数百億円規模のデベロップメントをやれてるっていうのは、まずはパートナーが一緒にやってくれていること、そして金融機関が助けてくれてるというバックボーンがあるからで、それはこの時代の流れでもあると思います。
その規模のものをやるっていうのは普通の事業では考えにくいですね。
そうですよね。それが実現できているのは、パートナーのお陰としか言いようがないです。
ずっと僕たちを応援してくれているパートナーは、再エネをずっとやってきた人たちなんですよね。ゼネコンにしても、電気工事会社にしても。そういう方々とずっと商売をやってこれたっていうのが一番大きい理由ですね。
そこに対してこうしたいっていうような思いはありますか?
僕は仲良しクラブがいいとは決して思ってないし、そんなことを言ったら逆に彼らの方が笑うくらい、フェアにこの関係を続けてきたと思っています。
高いものを安く買うのがビジネスだとは思わないし、逆に安いものを高く売りつけるのもビジネスじゃないとすれば、本来あるべきものをあるべき価格できっちりと仕上げていくことができるパートナーが僕にはいますんで、だからそれを叩くこともしないし、不要に多く払うこともしません。もちろん何かあれば真っ向勝負で向き合いますけれども。
まあ、そういうフェアでいい仲間に恵まれています。
とても素敵なお話ですね。ちなみに吉住さんは、どんなお子さんでしたか?ご兄弟は?
兄弟は妹と弟です。
子供の頃から貧乏も金持ちもやりました。車がいっぱいあったり、一台もなかったり、自転車すらなかったり。ガスや水道が止まったこともあれば、じゃぶじゃぶ金があることもあったし。
どういう子供って一言で言うとお母さん想いじゃないですか。
今でもそうですもんね。
僕って人間を一言で総括すれば、それに尽きるような気がしますね。それ以上でもそれ以下でもない。
やはり家族への愛情があるっていうのが結局従業員に対してもそうですし、そういうのにつながると私は思いますけれども。
ちなみになりたかった職業はありますか?
弁護士か商社マンになりたかったですね。
弁護士は父が目指していて、父は大学院まで行ったものの、僕が生まれちゃって働かなきゃいけなくなったんですね。それで泣く泣くあきらめたらしくて。そんなこともあって、弁護士というチョイスは子供の頃から身近にあって。
でも圧倒的な第一希望は商社マンでした。とにかく金儲けをしたかった。だから商社マンになって独立したいっていうのは、当時から一つの希望としてありました。
小さい頃に商社マンになりたいなんてなかなか思わないと思うのですが。どうして商社マンの存在を知ったんですか?
当時よく母と買い物に行ってたんですけど、そこで色んな世の中の流通の話なんかをしてくれるわけです。
なんでこの輸入の牛肉と国産の牛肉の値差がこれだけあるのか?誰が輸入するんだ?
お肉屋さんが自分たちで輸入して売ってるのか?そうじゃない、商社というのがあって、海外に行って大量に買い付けてきてそれを流通させてるんだと。
その商社ってなんなんだ?そのくらいの頃から商社には興味を持ってました。いつかそういった貿易ビジネスをしたいな、社長になりたいなって思っていました。
こういったことを教えるお母様もすごいですね。
母はすごい女性です。母はアーティストなんです。音大を出て。それで僕も音楽の道もやっていますけど。
仕事での失敗談があれば教えてください。
独立して最初何年間かは、サラリーマン戻りたくて戻りたくて(笑)独立した直後だけは良かったんですが、すぐにホントどん詰まりになって、「いや失敗したな~」と思いましたね。どっかでもう一度商社に戻りたいって。
そんな吉住さんが、今興味のあることはなんですか?
新しいビジネスをする。
もう何か考えてらっしゃるんですか?
ないです。今考え中です。ないんですけど、やっぱり新しいビジネスを起こしたいですよね。儲からない風力発電の仕事をずっとやってきた僕が言うのも変なんですが、と言いますか、さんざん儲からない仕事で苦労してきたからこそ、ビジネスは儲からないといけないと思うんですよ。少なくともトントン+αくらいはないとね。趣味でビジネスはやりたくないですしね。今考え中です。何かやりたいです。
時間、お金、人付き合いのこだわりってありますか?
こだわりは無いです。
男が失敗する三要素って、酒と女と金って昔からよく言いますけど、結局それって、そういうところに執着していくと、どこかで崩壊するっていう一つの警告だと思うんですよね。結局、酒に執着して金は残らず、金に執着して女にはモテず、女に執着して酒におぼれるという悪循環に陥るというか。
僕は、酒と女と金で自分自身を語りたくないですけど、例えばそんな、良くない意味での色んな執着、そういったものから自由になりたくて生きてきたので、その意味でこだわりというのはあまりないです。
ビジネスは少なくともトントン+αぐらいに収めるべきというのも、お金に対する変な執着を持ちたくないから、だからこそビジネスだけはきちんと回っていくようにしたいということです。
要するにいろんなものにこだわりたくないってことですね。
そうですね。
こだわりの人にみえますけれどもね。
何にこだわってるかなー?
こういうと語弊があるかもしれませんが、嫌いな人とは仕事をしたくないです。
わたしもそうです(笑)。
嫌いな人っていっぱいいますよね。まあ、嫌いな人は好きな人の3倍くらいいますからね(笑)。優しくなくて、自分のことばかり考えてる、そういう人はとても嫌いです。
仕事でも人生でも日々選択をして生きてると思うんですけれども、迷った時にどう選ぶようにされていますか?
早くできることは早くやります。すぐに処理できるものはすぐに処理し、早く手を打つべき時は早く手を打ち、じっくり考えるべきことはじっくり考える。そのようなカテゴリーに立て分けて臨みます。
それはどうやって分けるんですか?考えて分ける?どこかに書いたりされますか?
考えて分けます。書いたりはしません。全部頭の中です。やっぱりこういったビジネスって、長期戦じゃないですか。ものすごい大量のパズルをずっと何年もかけて組み上げていくようなものなんです。で、作るたびに壊されたり、ピースが無くなって探しにいったりとか、そういったことの繰り返しなんで、基本的に上から俯瞰して見ていないと仕事はできません。ですから、色んな意味で、全体感をまず見るというのは訓練されてきたように思います。
今訓練っておっしゃいましたけど、どうしたらこの力って身につきますか?欲しい人いっぱいいると思うんですけれど。俯瞰して全体像を把握するって。
仕事ではずっと追い込まれ続けていますからね。そういう中で自然に身に付いた思考の癖じゃないですか。偉そうに「俯瞰して見れてます」って意味ではなくて、そういう思考の癖があるんです。優先順位にしても何にしても、そういう癖でまず全体をパッと見て、これはすぐ処理しよう、これは誰それに投げよう、これはこうしようあーしようってまず考えて、自分がじっくり3時間5時間手を入れなきゃいけないものは横に取っておいて後からじっくりやるって感じです。
とっておいたそのものはいつどこでやる感じですか?
全部手を打った後にやります。場所はその日の気分ですね。場所に特にこだわりはありません。
(撮影協力 本多佳子)
#1 とにかく、風力発電事業を続けたいっていう熱い思いだけで走り続けた。
#2 この仕事は壮大なパズルを組み上げるようなもの。
#3 強くありたい、優しくありたいと必死で生きている人が好き。