再生可能エネルギー事業に長年携わり続け、業界を牽引する吉住社長。ビジネスマンとしての真剣で険しく厳しいお顔、人間味あふれるお話をされているときのお顔、どちらも人生の先輩としてとても魅力的です。どんな思いで事業を続けてきたのか、全3回で迫ります。
吉住 謙
HP:http://css-holdings.com/index.html/
-Profile-
中央大学商学部卒業。株式会社トーメン(現、豊田通商株式会社)に入社、船舶海洋機器部に所属。その後電力事業本部に異動し、日米欧の多くの風力発電事業に携わる。2001年に株式会社ウィンネックスを設立、2002年に株式会社ウィンドバンクを設立し、九州、四国、中国、東北及び北海道で大規模風力発電事業のデベロップメントを推進。2013年に株式会社CSSを設立し、大型メガソーラー事業を全国で開発しながら、大規模風力発電事業のデベロップメントを推進。現在、北海道及び東北地方を中心に、多数の大型再エネプロジェクトを自社で保有・運営し、今後は全精力を傾けて過去最大規模の事業開発に挑む。
人生のサマリーをお願いします。
大学卒業後に大手総合商社に入って8年間働きました。最初は船舶の投資や融資とかを3年くらいやりました。その後社内でスカウトされて、電力事業部に移動して、風力発電事業に取り組みました。25歳から5年間くらい風力発電事業をやって、30歳で独立しました。
独立された最初のお仕事は?
今やっている仕事ともかなり共通していますが、風力発電所のデベロッパーです。それこそ風が吹く場所を探すところから始まって、実際に発電所を建てるまでの全ての開発です。
3年前にこの会社を立ち上げられていますが、最初に独立された会社だったんですか?
30歳の時に、ウィンドバンクという会社を立ち上げました。文字通りウィンドに関わる会社として設立して、その後、商号を変えました。
ウィンドバンクを商号変更して、そこでサプリメントの販売を始め、今に至るまでどういった遍歴があったのですか?
ずーっと風力発電をやってきました。
風力の業界っていうのはかなり紆余曲折がありまして。日本で本格的に始まったのは2000年少し前くらいです。ちょっとしたブームになったんですよ。そのブームはというのは、最近あった太陽光バブルのように「高い金額で買ってもらって、すごい儲かります」っていうのではなくて、ちゃんと建設をすれば電力会社が買い取ってくれる、それなりの補助金もいただけるというのがあったんです。それと、自治体とか地元の住民の方々とか、地球に優しい電気を作る発電所を是非とも誘致したいとかですね。
2000年2001年とブームになっている中で僕は独立したわけですけれども、それがだんだん電力会社さんの受け入れ態勢が厳しくなり、「入札です」とか「抽選です」とかいう形になっていったんです。もともとは規制なんてほとんどなかったのですが、どんどんどんどん規制が厳しくなって、逆に買取価格はどんどん下がっていく。補助金の率も下がり、風力発電自体が経済的に立ち行かない事業になっていったんですね。
では、結構な人がその時期に離脱してますよね。
離脱したり、買収されたりですね。皆青色吐息でやってました。
でも風力発電を続けたいって人は僕も含めて結構多くて、それは大手の工事会社さんにもいるし、ゼネコンさんにも、ベンチャー企業にもいました。
今でこそ太陽光に投資するということが政府の政策によって当たり前になってきわけですけど、エネルギービジネスに民間企業が取り組めるって、もともとはなかったじゃないですか。電力事業っていうのは基本的に電力会社だけが完璧な権益を持っていて、発電事業も送電事業も自分たちだけでやってきたわけで、そういった電力事業を、しかもそれが自然エネルギーで、環境にやさしいもので、再生可能なもので、それを自らが手がけて運営していくっていうのは過去にはなかったし、それまでの常識ではなかったわけですよね。そこに携われた喜びと、地元も喜んで受け入れてくれているということがあって、風力発電事業を続けたいっていう熱い思いを持っている人が、大きな会社から小さな会社にもそれなりにいたんです。
僕なんかもお金のことだけを考えたら、正直この業界から離脱したかった時期がありました。実際に飯が食えないんですから。そこで、風力発電事業を続けるためにはこのままじゃまずいんで何かしなきゃって。それで始めたのが、サプリメントの仕事です。
サプリメントはもともとビジネスにするつもりはなかったんですが、母が癌で闘病していた時に、自分で探して、いいと思ったサプリメントがあったんです。当時それを僕は海外から輸入していたんですけど、日本では1個7~8万円とかいうような値段で売られてたんですね。そこで時間をかけて商品開発をして、その価格を10分の1に下げるっていうところからチャレンジして。幸いそれが、販売し始めてもう12年になりますが、楽天でずっとトップをとっています。
もともと輸入されてた?
個人で輸入していたんですが、それはあくまでも製品の輸入でしたから。僕は製品を輸入して単純に売るということがやりたかったわけじゃなくて、原料の開拓から始まって、自社ブランドで売るということを考えていたので。
原料もつくってらっしゃるんですか?
原料は輸入しています。アメリカで協力会社をつくって、そこが全部作っています。それを日本に輸入して、製品に仕上げています。
どこで作られてるんですか?
首都圏ですね、埼玉です。ここもずっと長いことお付き合いさせていただいています。
母の闘病の時に出会ったサプリメントで、サプリメントのことですから、単純に効いたとか言えない部分はありますけど、僕はすごい意味があったと思っているんですよね。癌の方はいっぱいいらっしゃいますから、それを求めやすくして、長く続けて欲しいなっていう思いと、やっぱりこのままじゃ飯が食えないということが、タイミング的に丁度うまくマッチしたんだと思います。
ここである程度売上げも立って、会社として回るようになったということですか?
そうですね、サプリメントの仕事をしながら風力発電の開発もずっと続けていました。
風力がお金になるようになったっていうのはいつくらいからなんですか?
最近ですね(笑)ほんと最近。
ということは始めてから15年くらいはきつい時代が・・・?
そうです。きつい時代から抜け出せたのは、ほんと最近です。太陽光と違って、風力は開発に時間がかかるんで、どうしてもタイムラグもありますからね。
15年待てるってすごいと思うんですけれども、15年待てた理由ってなんですか?
案件を一から育てるのって、最低でも5年はかかるんですよ。そうすると15年って、その5年の3ターンですからね。ある意味では、あっという間で。
なるほど。そういう考え方もできますね。
ずっとデベロップメントを続けてましたから。実際に僕が携わった事業はいっぱいあって、そういった苦しい時代でも確実に案件は作り続けてきました。
厳しい時代で事業をやっても儲からない時代があったってことですよね。それが「将来は儲かるはずだ」っていうのはそう思えた理由はあるんですか?
正直全然思ってなかったですね。
好きだからやってる?
はい。幸いサプリメントの方で、何とかそれなりに生計が立つようになっていましたから。
じゃ、この風力で一発儲けてやろう!!っていうのではなかった?
全くないですね。昔からやってた人でそう思ってた人はいないと思いますよ。
確かに、IPOを目指したいという夢を持っている人は極少数いましたけど、風力で大儲けしてやろうとかいう話とは違っていたように思います。
へ~!そうなんですね。
何でこの仕事を続けてるのか、社会的意義のようなものはありますか?
僕らは風力発電所をたくさん作ってきましたが、作ってる僕たち自身が、「日本においてこうやって一生懸命風力発電所を作っていけば、必ず再生可能エネルギー(注:以下「再エネ」)がこの世の役に立つ時代が来る」とは必ずしも信じていなかったんです。
ただ、先進国であるドイツやデンマークがどんどん導入していって、そして原発もなしに国のエネルギー政策を成立させようという動きになっていって、それでも僕らは半信半疑だった。その潮目が変わったのは、軽はずみに言ってはいけませんが、やはり3.11ということになります。
あの時に、日本全体のエネルギー政策が大きく変わりました。そこで皆が気付いたのは、原発が回っていなければこの国の電力は完全に不足して、大変なブラックアウトになるという風に、僕らは教わってきたんだけど、それは必ずしも正解ではなかったということ。そのような常識は、古くから変わらないエネルギー政策を大前提としたものであって、その前提が変われば、古い常識も変わっていくということでした。
さらにヨーロッパを中心に、大量に再エネを導入することによって、さらにそこにビックデータ解析ですとか、AIですとか、気象解析ですとか、スマートグリットですとか、他分野のさまざまなテクノロジーを組み合わせることによって、再エネっていういわば出たとこ勝負の、今日どれだけ発電するか分からないっていう電力も、しっかりと利用して役に立てることができるってことが、立証されてきています。そして今日、日本においても、再エネは単なるシンボルとか、名ばかりの発電所ではなくなってきています。
ヨーロッパのシンクタンクは、2030年には全世界の相当量のエネルギーが再エネに置き換わる、日本でも30%近くの再エネ比率が達成されるだろうと言っています。
今、何%位なんですか?
水力を除けば、ざっくり6%とかそのくらいです。でも2010年は、わずか0.2%程度に過ぎなかったんです。
そんなに少ないんですか?勉強不足で申し訳ないんですけど、原発で何%くらい?
政府の目標は原発が20%程度です。でも、イギリスのシンクタンクの予測では2030年で10%程度にとどまるだろうと言われています。
ですから、風力発電っていうのは淡い夢に過ぎなくて、それが本当にインフラとして役に立つまでにいったい僕らはどれくらいの時間を費やすのだろうとずっと疑心暗鬼だったんだけれど、実際の時代の流れはそうじゃなかったんですね。僕らの予想をはるかに超えてます。本当に再エネを利用していこうと世の中が真剣に動き出せば、必ず利用できるんですね。それだけのテクノロジーはここにあるんです。そう考えていくと、自分たちがやってきたことっていうのは、やっぱり無駄ではなかったんだって思います。
(撮影協力:本多佳子)