進化するマーケティングオートメーション #2 三つの連携

進化するマーケティングオートメーション #2 三つの連携


マーケティングオートメーション市場が活況だ。2014年から2015年にかけて、DMP(データデジタルマネジメントプラットフォーム)の市場規模は、168億から220億円(31.0%増)へと飛躍しており、2020年には更に2.6倍の420億に達するとも予測されている。(出展:矢野経済研究所 https://www.yano.co.jp/press/press.php/001481
活況の理由は、企業におけるマーケティング活動の費用対効果が強く意識されるようになったこと、顧客の詳細なニーズに基づいてパーソナライズされたコンテンツを提供する必要性が増したこと、データ取得のチャネルが複雑化したことにより、オートメーションツールがなければそもそもマーケティング活動そのものに支障をきたすようになってきたことなどが挙げられる。
自社のマーケティング活動を最適化することへの意識が高まっていることからマーケティングオートメーション(省略:MA)の導入、そして成果を出すための活用が加速している。
2006年に米国で創業し、2014年に日本に上陸したMAのリーディングカンパニーであるマルケト。国内でもその導入社数はすでに350を超えている。日本の第一人者であり、マルケト日本法人の社長を務める福田康隆氏に進化し続けるMAの展望を伺った。

福田 康隆
福田 康隆
株式会社マルケト
代表取締役社長HP:https://jp.marketo.com/
-Profile-
1972年生まれ。大学卒業後、日本オラクルに入社し、セールスコンサルタントとして勤務。2001年、本社のある米Oracleに出向し、営業職に従事。2004年、米セールスフォース・ドットコムに転職。翌年、同社の日本法人に異動。以後9年間に渡り、専務執行役員兼シニアバイスプレジデントとして同社の成長を牽引。2014年6月、マルケト入社と同時に現職に就任し、日本におけるマーケティングオートメーション市場の成長を牽引する。
河合 克也
河合 克也
水上印刷株式会社
代表取締役社長HP:http://www.mic-p.com/
-Profile-
2002年、早稲田大学商学部を卒業後、大手FA電機機器メーカーに入社。2007年より水上印刷の経営戦略に参画し、経済産業省商務情報政策局情報政策課への転籍を経験した後、2014年に代表取締役社長に就任。
「製造とサービスの融合」を核にビジネスモデルを掲げ、その基礎となる「ひとづくり」を経営の中心に据える。「お客様の面倒くさいをすべて引き受ける」をコンセプトに、マーケティング、クリエイティブ、ものづくり、 フルフィルメント、ロジスティクス、ICTを自社で一貫して保有し、小売流通企業の販促プロセスにイノベーションを起こしている。
2013年「おもてなし経営企業50選」、2014年「グローバルニッチトップ企業100選」を受賞。
“情熱は世界をより素晴らしいものにできる”をテーマに情熱人にスポットをあてたDigital Magazine「The PASSION」の共同編集長を務める。

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#2 三つの連携

カギとなる三つの連携

河合: 例えば2020年、25年、30年。おそらくこういうオートメーションの世界は、まだまだいろんなテクノロジーとつながって伸びていくと思うんです。少し、MAの未来の展望についてお聞きしたいですね。
例えば、メディアやチャネルはもっと多岐に広がっていくでしょうし、AIやテクノロジーの進化も止まらないでしょう。データは溢れるように巨大になっていく。IoTで生活者のライフスタイルは今と全く異なる姿になっているかもしれない。
そんな中でいろんな切り口があると思いますが、どんなサービスや技術を広げていきたいとか、イメージがもしあればお伺いしたいです。

福田: そうですね。大きく三点あるかなって思っていまして。
一つ目は「広告との連携」、二つ目に「アナログとデジタルの連携」、そして最後に「AIとの連携」です。

河合: なるほど、大変興味深いテーマです。一つずつ伺っていきましょう。

アドテクとMAの連携

福田: これまでアドテク(Ad Technology)とマーテク(Marketing Technology)はちょっと離れたところで進んでいたんですけども、これが融合する時代が来たというのが、この1、2年だと思っています。ここ最近だと、FacebookやGoogleとのWEB広告の連帯を強めています。

河合: WEB広告の分野は見た目はデジタルですが、裏側は非常にアナログで動いている部分も多い。広告の入出稿のルーチン作業を自動化する分野で、MAのテクノロジーが活きてきていると。そういう理解でいいですか?

福田: その通りです。この連携に限らず、例えばメール配信にしても、WEBの閲覧履歴や顧客の購買データなど様々な顧客データを集めてきて、お客様一人ひとりに合った内容を送信することでお客様とのエンゲージメントを徐々に深めていきます。企業内に散在する顧客情報(データベース)をつなぐために、膨大な人がとんでもない労力を使って作業しているというのが現場の状況です。

河合: デジタル蟹工船という言葉がイメージできますね(笑)

福田: これからはMAを使うことがきっかけとなって、多くの顧客がこういった単純作業の手間が省け、本来注力すべき仕事のパフォーマンスを高めていけるのではと思っています。もちろん、MAは魔法の杖ではありませんので、導入して効果がすぐに出るものではありません。企業内にある顧客データを精査したり、MAで施策を実施しPDCAを回していくことで、より効果的な施策のルーチン化を図ることができ、結果として生産性が高まっていきます。
『Marketo』に実際に組み込まれているサービスでいうと『Marketo』上で簡単に広告配信リストを作成し、届けたいお客様のメールアドレスをキーにFacebookと連携して、セグメントした広告配信することができます。

図:ターゲティング広告

河合: マーケティングの部門が、単純作業から解放されて、本来最も優先度の高い戦略創造、施策立案に目を向けられるという構図ですね。

福田: この流れは、従来のIT化の沿革とも似ていると思っています。例えば、以前はバックアップとかリカバリーとかインフラ構築に時間をとられていたIT部門が、クラウドの登場により、より戦略的な仕事に向かっていったのと同じ流れです。
マーケティングの世界にも、この流れが来るんじゃないかと考えています。

写真:カギとなる三つの連携

アナログとデジタルの連携

河合: ニつめのオフラインとの連携。これは私も興味の大きいところです。「アナログ・オフライン=リアル世界の広告宣伝や販促」と「デジタル・オンライン=ネット世界の広告宣伝や販促」とすると、ここに大きな断絶が存在するというのが一般的な見方です。私自身はそうではなく、この連携には大きなポテンシャルがあると感じています。

福田: 先ほども言ったようにMA=デジタルだという風に判断されるケースも多いんですが、重要なことはその顧客は決してデジタルだけにとどまっているわけではないということです。

現在、ダイレクトメールとの連携ということで、日本郵便さんと実証実験をやっているのですが「Eメールは見ない!」という顧客層は一定数存在しています。そこを放置しておいて良いのかというとそうではなく、ダイレクトメールという形でアプローチしたところ、相当数反響があったということで記事にもしていただきました。

「MAとDMを連動させたクロスチャネル実証実験—日本郵便鈴木氏とSansan石野氏に成果を聞く」
http://itpro.nikkeibp.co.jp/atclact/active/15/081700088/110400033/?mkt08
出典:日経IT proマーケティング

最適な顧客体験を考えると、やはり世界はデジタルだけではないですし、ダイレクトメールをはじめとした店頭での接客やコールセンターでの対話などによってデジタルではアプローチできない層にアプローチすることが可能となり、デジタルとアナログの融合で最大の成果がでるということが実験で見えてきております。

これまでダイレクトメールでは、大量送付だとどうしてもコスト的に見合わないところがあったのですが、ターゲットの設定やセグメンテーションなどの戦略立案作業、これに付帯する処理業務などをオートメーション化することにより、コストを下げながら効果を高めていくことが可能になりました。

河合: デジタル対アナログではなく、あたりまえですが最終消費者の生活動向に最も適したメディアとチャネルを選択し、一人ひとりに合ったコミュニケーションをすることが最も重要だということですね。

福田: その通りだと思います。ただ、最初から直ぐにデジタルとアナログの融合が必須というのではなく、時間をかけて大きな成功を収めようとするよりも、まずは実績を示すための「クイックウィン(素早い成果)」を作ることが重要です。それには、成果を出すために影響を及ぼすキーが何かを見極め、そこに投資、注力していくことが必要です。これは今後のマーケティング活動において、より大きな流れになると思います。

写真:アナログとデジタルの連携

AIとMAの連携

河合: 最後にAIとの連携ですね。

福田: そうですね。私たちもプレディクティブコンテンツという顧客の行動データを元にリコメンドをしてコンテンツを出していくという機能を持っていますが、まだまだこれからAIのテクノロジーもどんどん進化を遂げると思っておりまして、この連携も視野に入れています。

図:ウェブパーソナライズ

河合: 時間軸でいうと、AIとの連携サービスの実用化は、どのぐらいと見ていますか?

福田: 実運用に入ってくるのが5年後くらいじゃないかな、という気はしています。3~5年後というところでしょうね。

河合: ここ数年、あらゆるビジネス分野でBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)という考え方が増えてきています。BPOが拡大していくと、受け皿となる企業側が、必然的に労働集約モデルになってくる。ここはAIやアルゴリズムをもった自動化サービスの大きな潜在市場ですよね。

写真:AIとの連携サービスの実用化

福田: そうですね。BPO市場は一つ大きな鍵かなと思っております。
現在、企業側は機能別に組織が分断されているケースがすごく多いと思うんですよね。広告宣伝だけとっても、WEBとTVなどのマスメディアを担当する部門が分かれていたり、アプリ開発も、モバイルアプリチームはモバイルアプリだけしか携わらないとか。業務分担だけでなく、予算管理も同じですね。つまり、サービス提供において最も重視しなければならないカスタマーエクスペリエンス(顧客体験)を統合的に管理できているわけではないんです。

河合: BPOの価値として、機能別に分かれた組織を全体で俯瞰して業務を遂行することや、例えば、一つの大きなキャンペーンやプロジェクトを「軸」として、統合して最大成果を考えていくことができ、見ていくことができるということですね。

福田: そこが一つの大きなビジネスチャンスだと思っております。世の中が多様化、複雑化していく中で、マーケティング活動においてもコンテンツやチャネル、メディアをセグメントに合わせて最適に選んでいかなくてはなりません。人の手を介さずに、きめ細かいマーケティング活動を実践していく、そういう世界が広がってくると思っています。ただ決断するのは、人です。良い決断をするためにマーケターの経験則やチャレンジが基盤となるのではないかと思います。

河合: その通りだと思います。

#1 MA創成期
#2 三つの連携
#3 MAが起こす組織改革

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