前職で人材育成に従事していた頃にも接点がありましたが、改めて、コーチングの効用等について、日本有数のエグゼクティブ・コーチング・ファームであるコーチ・エィさんに話を伺いました。
早稲田大学政治経済学部卒業後、NTTコミュニケーションズ株式会社にて、顧客企業の海外進出時におけるグローバルITネットワーク構築や海外拠点内システムの提供などを通じたグローバル事業拡大のサポートに従事する。その後米国現地法人に出向し、日系及び米系顧客向けのソリューション営業にて実績をあげた。また、自社の現地法人や海外のIT企業を巻き込みながら、世界初となる通信技術の実験を日米間で成功させるなど、大型のプロジェクトマネジメントの経験も多数有する。
コーチ・エィでは自らの海外在住経験を活かし、駐在員エグゼクティブをクライアントに多くもつ。
大学卒業後、NTTデータに入社。流通業界向けのITソリューション営業の後、人材開発コンサルタントや公共・金融分野の人事人材開発のプロジェクトリーダーとしてグローバル人材等に携わった後、2016年1月水上印刷株式会社にICT革新部の部門長として参画。
「攻めのIT経営」とグローバル化を推進するため、社内ベンチャーさながらのスタンスでお客様や世の中への貢献と会社の成長に向けて旗を振る。
“情熱は世界をより素晴らしいものにできる”をテーマに情熱人にスポットをあてた本Digital Magazine「The PASSION」の共同編集長を務める。
アメリカと日本のコーチング活用の違い
遠藤: 日本に“コーチ”が入って来たのは1997年頃と言われていますが、“コーチング”はアメリカでは誰でも彼でも自然に受けているものなんでしょうか。
日本に入ってきて20年、まだ「そうは言っても効き目なんかないんじゃないか」みたいな懐疑論もある一方、やった人はもっともっとと大いに活用していると思うんですけど。
日本ではまだまだなのか、そのあたりはどうでしょうか?
川端: まだ日本は食わず嫌いというか、アメリカに比べたら一般化、普及はしてないかもしれませんね。
アメリカだとフォーチュン500社(※2)のCクラス、CEOとかCTOとかCIOとか、Cが付く人たちの7割ぐらいの人がコーチをつけているという調査結果もあるようです。何年も前の調査結果だったと思うんですけど。
※2 フォーチュン500
アメリカ合衆国のフォーチュン誌が年1回編集・発行するリストの1つである。 全米上位500社がその総収入に基づきランキングされる
遠藤: そんなにですか! 全然想像していませんでした。
川端: エグゼクティブが自身の成長のためにコーチを付けることは一般的ですし、ボード(※3)から「コーチをつけろ」というふうに言われるらしいですね。
※3 ボード
取締役会(Board of directors)のこと。
また、会社の主要メンバー(取締役)のことをボードメンバーなどと言うことがある。
遠藤: もう一歩具体的に聞きたいのですが、その企業でコーチを付けさせるのは誰なんですか?自分が希望する場合と周りが付けさせる場合、どちらのほうが多いんですか?
川端: ちょっと正確にはわかりませんが、どちらもいます。一種のステータスみたいな感じで。
例えばグーグルのエリック・シュミット氏なんかは、周りからだったそうです。ボードから「付けろ」と言われて、その時は「なんで俺が」と抵抗を示したらしいんですが、それでも付けてみて「コーチは鏡のような存在だ」と。「鏡を見ないと寝癖があることにも気付けないように、コーチという存在があるからこそ自分の正しい姿について気付けているんだ」というようなことを“TED”で言っていましたね。
遠藤: 寝癖に気づくという表現、いいですね。
感覚論でかまわないんですが、日本はどのくらいの利用率なんですか?
川端: 数字が出てないので正確にはわからないですが、コーチングを導入する企業は増えています。経営陣へのエグゼクティブ・コーチングだけではなくて部長層にも付けて組織全体の活性化や意識変革を行っています。
とはいえ、周りからとなると「俺達が社長にコーチつけろとは言えないよな」ということはハードルになりますね。
遠藤: そうそう、ある気がします、
日本の導入が進まない一つの要因としてコーチングのトリガーを誰がくのか。「俺の首に鈴をつけるのか」みたいな見え方になってしまうじゃないですか。
シュミット氏の場合は、ボードや監視・取り締まる側の人が執行役に対して物を言っているから言えるのだと思うのですが、会社の一機能の人が会社のトップに対して「やってください」と言うのは構造的に無理があるのかな、と。
川端: そうですよね。
遠藤: だからやった人が、これが良かったという口コミによる拡散・シェア型になるのかなと。
なので、今思ったのが「コーチングのやらず嫌いの根っこはどこか」と考えると実はHRなんじゃないかなって。自分で受けたことがないから、強く推進できない。
クライアントで「やれ」と言われてやる側の人達も、もちろん最初は抵抗を示すかもしれませんが、いざやってみるとすぐに気付くから、そのブロックは割とすぐに解除されるかなと思うんですけど、経験者としての一押しが足りない。
川端: 中には本当にパワフルなHRで、推進役を実現される方もいらっしゃいますし、そういう会社はありますね。そういう会社は下の現場の意見が通る強い会社だなってやっぱり思います。
ボードの一体感というテーマでコーチをボード全員につけるのもよくいただくテーマですね。
遠藤: そんなケースもあるんですか? 誰かに付けるくらいなら全員に、って感じでしょうか。
川端: はい。
今話していて思ったんですけど、アメリカと日本のコーチングの活用の違いは結構それにあるかな、と。
日本が組織にコーチをつけるのに対して、アメリカの場合はCEOや経営者に一対一でコーチがつくというスタイルですね。
多くは企業経営の経験のある方が引退してコーチとなって、現役の経営者にコーチングをします。そのコーチングは密室で行われていて、なにが起こっているのかはあんまり伝わらないような使い方がアメリカでは比較的一般的かな、と思います。
ですが、私たちがやろうとしているのはボードにつけて、ボードというひとつの組織を変えるということだったり。
遠藤: 経営経験のある方がコーチになるなら、少し心理的ハードルが下がりそうですね。
川端: あとはさっきの鈴をつける話と同じなんですけど、鈴をつける作戦を考えるのもなかなか難しいので、最近は導入検討の段階でトップの方にお会いしますね。
例えば「今までと同じことをやっていたら絶対達成できないような目標を実現するにはどうしたらいいのか」、というテーマで社長とか事業部門のトップの方とお会いして、「どう組織を変えていくとチャレンジングな業績目標を達成できるのか」、というトリガーにしていただきます。
#1 意外と知らないコーチングの中身
#2 コーチする側から見たコーチング
#3 企業でコーチングの導入が進むパターンとネック
#4 言葉に踊らない、実際的なコーチングスキル
#5 AI、IoT時代のコーチング