活況の理由は、企業におけるマーケティング活動の費用対効果が強く意識されるようになったこと、顧客の詳細なニーズに基づいてパーソナライズされたコンテンツを提供する必要性が増したこと、データ取得のチャネルが複雑化したことにより、オートメーションツールがなければそもそもマーケティング活動そのものに支障をきたすようになってきたことなどが挙げられる。
自社のマーケティング活動を最適化することへの意識が高まっていることからマーケティングオートメーション(省略:MA)の導入、そして成果を出すための活用が加速している。
2006年に米国で創業し、2014年に日本に上陸したMAのリーディングカンパニーであるマルケト。国内でもその導入社数はすでに350を超えている。日本の第一人者であり、マルケト日本法人の社長を務める福田康隆氏に進化し続けるMAの展望を伺った。
1972年生まれ。大学卒業後、日本オラクルに入社し、セールスコンサルタントとして勤務。2001年、本社のある米Oracleに出向し、営業職に従事。2004年、米セールスフォース・ドットコムに転職。翌年、同社の日本法人に異動。以後9年間に渡り、専務執行役員兼シニアバイスプレジデントとして同社の成長を牽引。2014年6月、マルケト入社と同時に現職に就任し、日本におけるマーケティングオートメーション市場の成長を牽引する。
2002年、早稲田大学商学部を卒業後、大手FA電機機器メーカーに入社。2007年より水上印刷の経営戦略に参画し、経済産業省商務情報政策局情報政策課への転籍を経験した後、2014年に代表取締役社長に就任。
「製造とサービスの融合」を核にビジネスモデルを掲げ、その基礎となる「ひとづくり」を経営の中心に据える。「お客様の面倒くさいをすべて引き受ける」をコンセプトに、マーケティング、クリエイティブ、ものづくり、 フルフィルメント、ロジスティクス、ICTを自社で一貫して保有し、小売流通企業の販促プロセスにイノベーションを起こしている。
2013年「おもてなし経営企業50選」、2014年「グローバルニッチトップ企業100選」を受賞。
“情熱は世界をより素晴らしいものにできる”をテーマに情熱人にスポットをあてたDigital Magazine「The PASSION」の共同編集長を務める。
#3 MAが起こす組織改革
機能別組織の限界
河合: MAの経営者から見て、未来の組織論や仕事論、このあたりってどういう風に変わっていくと感じていますか?
福田: まず、従来の機能別組織は限界に来ているのかなというのが私の実感です。顧客のライフサイクルという点でいうと、これまで多くの企業活動の入り口がマーケティング、言い換えると「認知をあげる」ところですね。そこから「潜在顧客の選定」と「営業活動」、契約して顧客となった後は「アフターサービス」という流れです。それぞれ機能別組織においては、「マーケティング部」「営業部」「カスタマーサポート部」が担当するわけですが、顧客から見ると相対する人たちがどんどん変わり、会社が大きくなればなるほど部門間共有が行われなくなってきて、顧客の状況が把握できなくなってくる。
河合: 一消費者としても、非常にストレスを感じる場面は多いですよね。
福田: そういった意味ではこれまでの機能別ではなく、顧客のライフサイクル、カスタマー・エクスペリエンス(顧客体験)をどう見ていくかという組織づくりや、その役割が求められてくると思うんですね。いわゆる横串ですね。
河合: まったく同感です。
福田: 私が実際よく耳にする企業様の共通課題は、組織の壁をどのように越えるかということです。他の関連部門の人たちに納得していただいたり、上層部に推進の協力を仰ぐことに一番苦労していると。
河合: 戦略実行とか施策以前の問題ですよね。
福田: 顧客中心の組織変革が求められているんだと思います。例えば、MAを活用したマーケティング活動において、マーケティング部門から優良なリードが営業部門に渡す、営業部門でフォローしないリードはマーケティングやインサイドセールスに戻すなどの一連の流れだけを見ても、おのずと、組織を横断した取り組みが必要となります。
また、人事評価についても同様に、縦割りの業務分担で評価されていた今までから、顧客を中心に考えると一連した顧客行動に合わせて、業務が組織を超える、クロスすることもあるかと思います。その時、どのように評価するのかも改めて考えることが必要となってくるかもしれません。MAというデジタルテクノロジーをキーに、組織変革のきっかけ作りになるのではと感じています。
市場啓発と言ったらおこがましいですが、単なるMAの使い方やノウハウなどでは無く、「CMO、CEO、CIO連携によるデジタルマーケティング戦略」や「企業変革を起こすMA」など、経営層をはじめとしたマーケティング、IT部門などへの勉強会を開いたりなどしています。
河合: すごく賛成ですね。営業は営業部、管理は管理部、マーケティングはマーケティング部という、まさにこういう機能別組織が本当に限界に来ていて、そもそもこれはお客様目線での組織デザインではないんですよね。お客様を軸に考えると、お客様に特化して専門性を突き詰めていく事業部門と、これを横断的につなげられる組織部門がきちんと機能していく、こういったことが一つの理想的なあり方だと思います。
福田: これに伴って、経営指標をどうやって見ていくかというのが結構大事かなと思っていまして。
河合: どんな経営指標ですか?
福田: 簡単にいうと、例えば「率」と「実数」と、常に本質を見なければならないということです。最近あった事例で他のツールを使われていたお客様の話なんですが、以前に比べてメールの開封率が5倍上がったとか3倍上がったという話がでてきまして。よくよくお話を聞くと、これまでは顧客データを整理してはなかったために全てにマスメールを送って低かった開封率が、ツールを入れて、明らかにうちに関心が無い顧客やほぼ休眠状態になっている顧客を除くことによって上がりましたと。でもこれって結局、開封した人の実数はほとんど同じで、送る対象を絞ったから率が上がったという話なんですよね。それで本当にいいんだろうか、と。
河合: ビジネスとしては、実数を大きくしていかないと当然伸びない。
福田: そうなんです。これまでは、メール担当やWEB担当といったように、部門や担当がチャネル別に細かく分かれていたことによって、成果や評価というものが開封率の数字だけを見るしかなかったわけですけど、ビジネス全体の観点からすれば、やはりその母数・実数を大きくしていかないとお客様が広がっていきません。
河合: 細分化された組織ごとのKPIによって、全体最適にならないことがたくさんある、これも機能別組織の弊害だということですね。
福田: 経営やビジネス全体で見たKPIや指標を横串で見ていくという視点がすごく大事かなと思います。ですから社員の業績評価をどういう基準でやるのかというところが、組織の成功か失敗かの大きな分かれ目の一つかなと思っています。
求められる人材と評価
河合: 現在、御社の社員の評価ってどうなさっているんですか?
福田: マーケティングに関しては、基本的に作り出した商談の金額というのが中心になりますし、インサイドセールスであれば作り出した案件数ということになりますが、随時これをチューニングして、変更していく必要があるかなと思っています。
河合: 最初に決めたことを突き通すということも大事なんでしょうけども、日々の細かいチューニングを最適に行うための評価体制、そしてそのスピード感が求められる気がしていますね。
福田: こういった評価のチューニングを随時行っていくには、ツールによって状況を可視化することが必要だと思います。状況の可視化によって、すぐに判断ができるようになりますから。ITのツールの一番いいところは、やったことが結果としてすぐ見えるというところだと思うので、これをリアルタイムで人事評価に活用できるというのもユーザーに求められるポイントかなと思っています。
日米文化の違いと共通課題
河合: グローバルとローカルという言い方をすると、グローバルなサービスツールだというと聞こえは良いが、特に日本のユーザー要求は独特で、ローカライズの難しさや壁があると思うんです。ご自身の経験で、何か日本とアメリカを比較して感じるところはありますか?
福田: そうですね。よくアメリカと日本では文化が違うんだ、課題も違うんだ、という話がありますが、実際私がアメリカで働いていた経験からすると、課題は同じなんですよね。
河合: 課題は同じ?
福田: はい。例えば、アメリカでもB to Bマーケティングで必ず語られるのは、セールスとマーケティングの連携という話ですし、人材を育てなければいけないという話です。アメリカではCMOというポジションが存在して、これが強いとかいう話もありますがもとの課題は同じで、日米問わず万国共通のビジネス課題は、「部門間の連携」と「人材育成」の話です。
河合: どちらも人間的な課題です。万国共通かつ、時代を問わずということでしょうね。
福田: ただ、大きな文化の違いを感じたことが一つあります。
河合: というと?
福田: 日本のお客様は、マーケティングで成果を出されていても、「まだまだできていません。」とおっしゃることが多いように感じます。なので「私たちは、国内外のMAを活用したマーケティングの成功事例を見ていますが、その中でも御社は高い成果を収めていらっしゃいます。中長期の目標に向かっての大きな布石、成功です。」とお伝えすることがよくあります。
河合: よくわかります(笑)
福田: それは社内の会議でも同様で、例えば上司に成果を聞かれたとします。以前よりは進んでいることがあるんだけども、まだ理想像からほど遠いといった場合に日本人は「ここはできる様になりましたけども、まだここはできていません。」という言い方をする。アメリカ人は全く逆で「こんなに俺たちはできた」という感じで、成果を声高に主張するんですよね。ただ、じっと見ているとこれが次への展開を生むところがあります。
グローバル展開なんかにおいても、日本の方だと、「まだここまでしかできてないから、海外でそれをやるには時期尚早だ!」ってなってしまう。明らかに日本とアメリカの違いを大きく感じるところは、このマインドですかね。
河合: 謙遜するのは日本の美徳かもしれませんけど、思考がポジティブじゃないと新しいイノベーションなんて起きようがありませんしね。できる、できたということをプラスに考えて、前に進んでいかなくてはならない。
福田: ただ、繰り返しになってしまいますが、課題は共通なんです(笑)。本当に、判で押したように営業とマーケティングの連携とか、マーケティングとITの間で衝突が起こるとか、営業マンがリードフォローしないとか、そんな話は沢山ありますしね。万国共通の永遠の課題のようです。
河合: まぁでもそういう事なんでしょうね。
Tomorrow’s Marketerへ
河合: 最後に何か締めのメッセージというか、こんなことにチャレンジしていきたいな、という話はありますか?
福田: マーケティングやテクノロジーの分野って、まだまだ理想像が何かってことが見えていない世界ですし、常に正解があるものではないと思うんですよね。ここまでいったらもう終わりという世界ではないので。だから、ここまでやってないとまだ恥ずかしいとかではなくて、どんどん皆で学んでいこうって、そういう環境を作っていきたいなと思っています。我々もユーザー会とか、コミュニティを活性化していって、皆さんが共有して学ぶ場をどんどん作っていきたいなと思っています。まだまだ市場の黎明期なので、これが一番必要なことかなと思っています。
また、世界最大のマーケティング専業会社として、エンゲージメントマーケティングプラットフォームを開発提供しながら、「実際自分がマーケターと思っている方って市場にどれぐらいいるんだろう?」ということを考えることがありまして。というのも、ユーザーの皆さんも、MA導入をきっかけにマーケティングに取り組んだとか、そういう方って沢山いらっしゃるんですよね。大手企業でも従来の広報・宣伝しかなかったと。そういう中で、僕はマーケターだ、僕はデジタルマーケターだという人は、現状、実はすごく少ないんじゃないかと思っているんです。改めて私たちの会社のサービスによって将来のマーケター像や、未来のマーケティング志向の企業像を作っていく、マーケティングテクノロジーのイノベーションを通じて、お客様と企業、私たちのようなパートナー双方の成功、ビジネス成長の加速をサポートしていく、そういう世界を創っていければいいなと思っています。
河合: MAは、マーケターの仕事を奪うのではなく、新たな未来のマーケターを生み出していくんだというメッセージですね。
福田さん、大変参考になるお話ばかりで、未来を考える上で重要なキーワードがありました。本日はありがとうございました。
福田: こちらこそ、ありがとうございました。