働く女性に向け、またこれから就職活動をする学生に向けて、恩師を訪ねて第一弾。
東洋大学経済学部教授 浅野清教授を訪ねました。
東洋大学経済学部 教授
名古屋大学経済学部を卒業。経済学修士を取得し、同大学で助手を経てから東洋大学経済学部講師へ。1988年より東洋大学経済学部の教授として教鞭を持つ。専門は、経済学、社会経済システム論、社会思想など。大学ではフランスのストラスブールに足場を据え、社会経済システムの国際比較研究を続けている。
著書に『ルソーの社会経済思想』(時潮社 1995年,博士号取得)、『21世紀の経済社会』(八千代出版 2000年)、『成熟社会の教育・家族・雇用システム』(NTT出版 2005年12月)等がある。
水上印刷株式会社 営業本部営業1部チーフ。
2009年、東洋大学経済学部卒業。選考の中で何人もの先輩に会い、その中で感じた裏表のないオープンな雰囲気に惹かれ、水上印刷への入社を決意。 入社以来、資材グループ一筋で、パッケージや添付文書、説明書などの営業を担当。 営業7年目の現在は、知識や経験も伴って数多くのクライアントを任されるようになり、会社に欠かせない存在として活躍中。
#1 久々の再会
学生時代を振り返って
田中: ではまずはじめに、私の学生時代の話をお願いします。私、どんな生徒でした?
浅野: おしとやかで。
田中: (笑)。
浅野: 当時、女の子4人で男が7人いて。その11人の団体を仕切ってた子なの。仕切るってことがぴったりでね。本当、男の子もみんな言うことを聞いたよね。あとは印象あんまりないなあ。
田中: それだけですか(笑)。
浅野: 見た目はボーイッシュな感じの子で。非常に気が強いっていうか、全然泣かない子なんだけどね、一回だけここで泣いたの。ぽろっと泣いたことがあるの。
田中: 本当ですか? 覚えてない。
浅野: 覚えてない? ぽろっと、将来のことをいろいろ2人で話してたらね、「えっ」ていう感じで。ある琴線に触れることがあって。やっぱり明菜も女の子だったんだなあって。
ああ、やばい。これ以上言うとやばいなあと思って、ぱっと止めたことがあってね。それは、この子が将来どうするかっていうものすごい重要な話をしてた。すごい話をしてた。
田中: 全然覚えてないよ。そうだっけ?
浅野: そうなの。本当、大事な話だったね。
田中: 何の話してたの?そこ、重要じゃないですか(笑)。
水上印刷を勧めた理由
田中: どうして先生は、私に水上印刷を勧めてくれたんですか?
浅野: 水上印刷の方がいらっしゃって、「元気のいいのいないか」って。それでね、「この子だ!」って思ったから。幾つか内定が決まっていたわけなんだけど、辞めちまえと。
田中: そうそう。選考が進んでいたんだけど、本当に私先生にだまされまして。覚えてますか?
浅野: だましていないよ。普通はそんなことしないよ、人間は。
でも、この子は大丈夫、できる子。私のめがね。研究室でアルバイトもしていたしね。まあ、そういうのもあって。それから何月?
田中: 八月ぐらいかなあ。当時先生は、説明会があるからまだ迷ってるなら話を聞いてきなさいって仰られて。
浅野: 本当?
田中: 本当です。
浅野: そんな優しいこと言うわけないだろう。
田中: いや、当時そういう感じだったの。
浅野: 感じはね。
田中: いいから行ってこいって。
浅野: こっちはもう電話で話がついてるから、やっぱりそういう言い方しなきゃいけない。
田中: そう、話がついているのに、決まってるのに行ってこいって言うから。私は説明会だと思って、何人かいるかと思ったら私1人しかいなくて。
浅野: 知らないもん。だって見てないから。
田中: だって説明会じゃないんだもん。行ったらいきなりもう面接で。説明会って聞いてきたんだけどなあと思いながらも、受けたら。次は役員の人に会ってもらうのと、あと工場見学に行ってもらいますっていうふうに言われて。「これは…?」って思って。ちょっと待って待って待ってって思って。忘れもしません。
浅野: だまされたと思ったの?
田中: それで私、先生のところに乗り込んでいったの。説明会って言ったじゃないですか、と。もう選考進んでいるんですけどって言ったら、先生が「おまえの性格で考えたら、大手の歯車になるよりも中小企業で何でも自分でやる方が活躍できるだろうから。おまえは大手じゃなくて中小企業で。」って。
浅野: そんなこと言った?
田中: 言いました。
浅野: 大企業で5千人、2万人おったらさ。全部一緒にこう、出来るわけないでしょ。ああいうところは事業所っていって、結局20人なの。配属された先で、いろんなところ。水上はワンフロアかは知らないけれども、一応みんなの顔がちゃんと分かって、お互いどういう仕事かも分かって。そういうとこでもこの子は物おじしないだろうと。
仕切るっていうのと、物おじしないのと。頭は、まあちょっと、こっち側に置いておいて。
田中: (笑)。頭はこっちに置いておいて。そうだね。
浅野: 仕事熱心だしね。僕のアルバイトやってた時のことで分かるし。それで、大企業より中小企業でやる方が合うだろうって。あと何だろう。
田中: 耳がいいって、私、褒められたことがあって。それが凄く印象に残っています。
浅野: そんなこと言ってた?
田中: 私、一番先生に褒められて嬉しかったんです。おまえは耳がいいなあって。覚えてないですか?(笑)
浅野: 言おうとしていることの意味は分かる。どういうことかって言うと、筆記試験で書いて、九十何点ですっていう子じゃないの。そういった意味では有名な高等学校、有名な大学、入れる子じゃないんですよ。そんなにやってこなかったかもしれないしね。その代わり、耳学問。耳学問って言葉が我々の世代にはありましてね。耳学問。
田中: 耳学問。
浅野: 人から聞いたことを、別に書かなくてもいいわけ。今の子は「ちょっと待って」って言って、メモ帳とかに書いてるわけ、一生懸命。耳で一回聞いただけできちんと理解できるって意味では、今どきの若い子の中ではすごい優秀だと思うね。仕事の世界ってのは戦場なんですよ。お客さんが何か言ったら、「ちょっと待ってください。辞書で調べてみますから。ちょっと待って。」って。耳なんです、あくまでコミュニケーションは。言われたことをぱっと理解できて、一番。二番目に、『なぜ相手がそう言ったか』も半分ぐらいはこの子は分かる子だったわけね。だから、11人いる子をきちんと統括できるっていう。そういう能力も今どき珍しくてね。別に褒めてるわけじゃないよ。
田中: 褒めてるんじゃないの?(笑)
浅野: だから、耳学問っていうのもすごいし。その代わり筆記試験やると、零点じゃないけど七十点ぐらいしか取れない子でね。
田中: (笑)。
浅野: この子は実践肌の子で、座ってコツコツ何かやるような子じゃないと思うね。何よりも、耳学問と仕切れることと、どっちが能力として重要かなっていったら、やっぱり両方要ると思うね。女の子でアルバイトでやったり、一般職とアルバイトと違って、やっぱりある段階で人の上に立たないといけないでしょう。同時に、自分でも何かやらないといけないといったときに、両方要るんじゃないの。両方持ってる能力としては稀有な存在でね。あと言いようないね。褒めるとこ、どこに。背も小っちゃいし。本当そうじゃない。悪く、いや、うそついたってしょうがない。
田中: 本当にそうですね(笑)。でもよく覚えてますね。
浅野: 学校の先生って、すごいよ。それ以外何の能力もないから。本当、学校の先生って使いようがないの。
田中: 一人一人の生徒のことを、すごくよく覚えてます。
浅野: その子がどういう可能性があるかなあっていうのを、じいっと見てるわけ。
田中: そうそう。それでみんな会いに来るんですね、先生に。
浅野: みんなってわけじゃないけど、男の子にはもてるのよ、私。
田中: そもそも女の子いなかったから、ゼミに(笑)。